BLOGブログ

西村雅史公認会計士税理士事務所 > ブログ > (税務相談)法人税 役員退職金 功績倍率の有名判例を踏まえて
法人税2020.10.20

(税務相談)法人税 役員退職金 功績倍率の有名判例を踏まえて

(税務相談)法人税 役員退職金 功績倍率の有名判例を踏まえて
A部長
A部長

本日は、役員退職金の中でも課税庁と特に争いがあると聞いたこともある功績倍率について教えてください。友人の社長からは、3倍以内であれば問題ないと聞いています。

功績倍率3倍は、現場のみで機能?

9-2-272  業績連動給与に該当しない退職給与(H29年税制改正新設)

いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法第34条第5項《業績連動給与》に規定する業績連動給与に該当しないのであるから、同条第1項《役員給与の損金不算入》の規定の適用はないことに留意する。​

(注) 本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法をいう。​

ポイント

実務上は、功績倍率法に基づいて役員退職金を算定することが一般的。

功績倍率は、類似法人の役員の退職給与の額を参考にすべきと多くの判例でされているが、実務上は、下記のような倍率を規程に基づき使用しているケースが圧倒多数。

EX)功績倍率法:代取3.0専務2.4常務2.2平取1.8監査役1.6

(注意)功績倍率が3倍以内に収まっていれば、現場(税務調査等)では機能するが多いが、争いになれば、それよりも低い倍率しか認められないということが裁決事例・判例等では見受けられるので、以下の有名判例を確認しましょう。

判例(飯田精密事件(東京高判・平成25.7.18)​)

・飯田精密事件(東京高判・平成25.7.18

不動産賃貸業及び損害保険代理業を営む法人の代表取締役が,死亡退職した際に,取締役会決議により,役員退職給与6,032万円と弔慰金384万円を支払った。最終報酬月額は32万円、勤続年数13年、功績倍率14.5倍と計算されていたため、税務調査時に功績倍率3倍を超える4,784万円を大退職給与と認定し、更正処分を行った。納税者側はこれを不服として異議申立てを行った。​

(事実関係)​

・更正処分前に、最終報酬月額を改訂し、功績倍率を3倍、その他損害賠償額等のとする算定根拠書類を提出した。​

・納税者側は類似法人の最高功績倍率を使用することが最も合理的と主張​

・退職の直前にその報酬が大幅に引き下げられたなどの特段の事情はない。​

(審判所の判断)​

最高功績倍率を用いるべき場合とは、平均功績倍率を用いることにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値を得ることができるとはいえない場合、すなわち、同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合や、その抽出件数が僅少であり、かつ、当該法人と最高功績倍率を示す同業類似法人とが極めて類似していると認められる場合などに限られるというべきである。

⇒特殊事業はないと判断し、功績倍率1.18が認定され,適正額4,908,800円を超える55,411,200円が過大役員退職給与額とされた。​

ポイント​

功績倍率は3倍は、現場(税務調査等)でしか機能しない可能性あり(現場で機能させるようにする)。

判例(残波事件​)

・残波事件(東京地判・平成28.4.22

同族会社である酒造メーカー(H社)の代表取締役(役員A)が取締役に分掌変更したことに伴い支給された「役員退職給与」に“不相当に高額な部分の金額”があるか否かを争点として争われた事案。​

(事実関係)​

・代表取締役⇒取締役に分掌変更したが、国税不服審判所の調査官に代表取締役の名刺を提示。​

・最終報酬月額×在職期間15年×功績倍率3.0倍を採用​

・H社は同族会社であり,同族関係者以外の役員はいない。どのような業務が代表取締役の経営判断によるか判然としない。​

・役員AはH社の主力商品の製造管理を行っており,その業務がH社の重要業務(分掌変更後の役員給与の支給は,役員Aが行う主力商品の製造管理に係る技術的な指導がH社の重要業務であることの証左)。​

・役員Aは,分掌変更後,工場勤務が月に3,4回程度となり,役員給与が3分の1以下になっているが,銀行からの融資の話し合いに参加し,また,分掌変更後も代表取締役の名刺を配るなどしている。​

・役員AはH社の発行済株式の2分の1以上を保有。​

(国税不服審判所の判断)​

役員Aは,分掌変更後も,H社にとって不可欠な業務を行い影響力のある地位を占めていたと認められるため,退職と同様の事情にないと指摘。H社が支給した金員は,そもそもオーナー株主に該当する場合には、役員退職給与に該当せず,“不相当に高額な部分の金額”を判断するまでもないとした。​

・残波事件(東京地判・平成28.4.22

(事実関係)​

・功績倍率が3倍を下回るものではないことも当事者間に争いがない。​

(国税不服審判所の判断)​

「代表取締役に対する役員給与の最高額について、比較法人4法人のうち上位2法人と下位2法人との間に大きな乖離がみられ、しかも、その平均額についても各比較法人の代表取締役に対する役員給与の最高額との間に大きな乖離がみられるという状況であるところ、上記のようなKの原告における従前の職務の内容等に照らと、原告の経営や成長等に対する相応の貢献があったというべきであって、その職務の内容等が代表取締役として相応のものであるとはいえない特段の事情があるとは認められないから、Kの代表取締役としての役員給与のうち、上記の平均額を超える部分が、不相当に高額な部分の金額であるとすることはできない。そして、上記のとおり、比較法人の代表取締役に対する給与について、不相当に高額な部分の金額があるとはいえない本件においては、Kの役員給与が上記の最高額を超えない限りは、不相当に高額な部分の金額があるとはいえないと解すべきである。」​

ポイント

・役員報酬は過大役員給与の認定がある。​

⇒適正額計算のロジックと、役員退職給与の適正額計算のロジックとは別物と判断されている。​

・裁決の段階では,分掌変更退職給与の否認という論点があったが,地裁の判決文には,一切出てこない。​

⇒オーナー株主であることだけでは否認は難しいと考えられる

※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において行ってください。

シェアする

ニッシー@税理士をフォローする

関連記事

お気軽にお問合せ・
ご相談ください