BLOGブログ
法人税 役員の分掌変更時の退職金取扱い

目次
本日は役員が常勤⇒非常勤となった場合のように、実質退職したと認められるケースとはどのような場合なのか、条文と判例を見ながら確認していきます。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
法人税法基本通達
9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与
法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注)本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
ポイント
・いずれの例示も「法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者」は除かれている。
・(2)(今は分からないが)課税庁の内部管理文書(H25年大阪国税局)では、 (1)の常勤役員から非常勤役員への変更の場合にも同族関係者の(オーナー株主の)退職は除かれていた。
・給与の激減要件については、他の代表取締役との金額的な整合性を考慮する必要がある(激減後も他の代取等と同等の給与額のようなケース) 。
・資金繰りの都合で未払金計上とした場合にまで、損金算入制限は課されていないとされる。
判例①
裁決事例(平成29年7月14日)
代表取締役社長が代表権のない取締役会長となった際に法人税の所得金額の計算上,損金に算入したことが、実質的に退職したと同様の事情があるか否かが問題となった事案。
(事実関係)
・午前中勤務だが、ほぼ毎日出勤。
・金融機関、取引先との折衝あり。
・人事関係の決定等あり。
・事務所に係わる支出の決定に関与、多数の領収書のチェック、サイン等の行為あり。
・後任の代表取締役よりも高額な役員報酬。
・3年後、代表取締役に復帰。
(審判所の判断)
・退職したと同様の事情はないとして請求を棄却。
ポイント
分掌変更後に役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあったと認められるか否かについての判断は、形式的に報酬が激減したという事実があったとしても,実質的に退職したと同様の事情にない場合には,その支給した臨時的な給与を退職給与として損金算入できないこととなる( 法基通9-2-32 )。
判例②
東京地裁平成20年6月27日
原告会社を実質的に退職したとして退職給与を支払い、上記退職給与を損金に算入して法人税の申告をしたところ、徳島税務署長が、原告三郎は原告会社を実質的に退職したということはできず、上記退職給与は役員賞与に当たり、損金に算入することはできないとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をしたことから、原告会社がこれらの処分の取消しを求める事案
(事実関係)
・原告会社は親族4人が発行済株式のすべてを所有する同族会社であり、原告三郎はそのうち35%を所有する筆頭株主であって、代表取締役退任後もその株式の所有割合に変化はない。
(裁判所の判断)
「原告三郎は原告会社において、役員としてはおろか、従業員としても一切の業務を行っていない状態になったのであって、仮に、原告三郎が筆頭株主として原告会社に対して何らかの影響を与え得るとしても、それは、飽くまで株主の立場からその議決権等を通じて間接的に与え得るにすぎず、役員の立場に基づくものではないから、株式会社における株主と役員の責任、地位及び権限等の違いに照らすと、上記のような株式保有割合の状況は、原告三郎が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあると認めることの妨げとはならないというべきである。 」
ポイント
・オーナー株主の分掌変更の場合には、通達上の形式否認のリスクはあるが、オーナー株主としての影響力は、理屈上、役員としての影響力とは別物である(所有と経営の分離)と判事されているため、その法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者かの実質が重要となる。