BLOGブログ

西村雅史公認会計士税理士事務所 > ブログ > 印紙税の節約術まとめ(電子文書 後編)
印紙税2020.11.24

印紙税の節約術まとめ(電子文書 後編)

印紙税の節約術まとめ(電子文書 後編)

目次

前編にて電子文書の概要のご紹介をしましたが、本日の後編では具体的な電子文書の種類ごとに印紙税の取扱いをご紹介していきます。それでは早速見ていきましょう!

※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。

電子定款について 

1)電子定款なら印紙税不要? 

株式会社などの設立時に作成する定款には、主なものとして、通常、文書にかかる印紙税4万円(6号文書)と認証にかかる公証人の認証手数料5万円が必要となります。しかし、用紙ではない電磁的記録(PDF)である電子定款の場合は収入印紙4万円が不要となりますただし、電子定款の作成には電子署名に係る設備の導入などのコストが発生してしまいます。 

なお、印紙税の課税対象となる定款は株式会社、合名会社、合資会社及び相互会社の設立の時に作成される定款の原本に限られます。そのため、公益法人や医療法人、NPO法人等の上記以外の法人の定款は課税文書に該当しません。また、設立後に既に存在する定款の内容を変更した変更定款についても課税文書に該当しませんのでご留意ください。 

2)電子定款の手続きの流れと必要な設備 

従来は紙で製本したものに収入印紙を添付して公証人役場で認証する必要がありましたが、電子定款認証の手続きのおおまかな流れは以下のとおりです。  

①パソコンで電子定款(Word、Excel等)を作成 

②管轄の公証役場に問い合わせの上、定款案をメールやファックスなどで送付(内容と誤字脱字の確認) 

③電子定款をPDFファイルに変換し電子署名をする 

④署名済みの電子定款を法務省の「登記・供託オンライン申請システム」で提出 

⑤管轄の公証役場にオンラインから電子定款の認証申請を行った旨を連絡 

⑥公証人の認証完了後、管轄の公証役場にて本人確認資料の提出や認証手数料を支払う(認証の嘱託人か代理人が対応) 

上記③からわかるように実際は、単に定款をPDFに変換するだけではなく、それに電子署名を行う必要があります。具体的にはPDFに電子署名するためには有料版Adobe Readerのインストール、その電子署名を証明するための電子証明書を市区町村の交付窓口で取得(交付手数料あり)、そして、電子証明書を読み込むための公的個人認証サービスに対応しているICカードリーダライタの導入等が必要になります。 

このように電子定款には「収入印紙不要」「オンライン申請可能」などのメリットがありますが、一方、自身で申請する際には電子署名に係る諸準備などで一定のコストが発生しますので、電子申請の設備が整った行政書士や司法書士に一度相談された方が良いでしょう。 

電子契約について 

1)電子契約は印紙税不要? 

 電子契約とは、従来は紙であった契約書を電磁的記録に置き換えて契約を締結する仕組みです。この電子契約に係る契約書も課税文書を作成したことにならず、どんな内容であっても印紙税は不課税となります。また、電子契約を導入・運用することで、ペーパーレスによる印刷代や保管・郵送コストの削減、業務効率化やコンプライアンスの強化も見込めるため印紙税以外にも多くのメリットがあります。 

ただし、単にメールで契約書のPDFを送付しサーバーに保存するだけでは契約書としての法的効力がありません電子文書は容易に編集できる(改ざんできる)という弱点があるため、電子契約での契約の真正を証明するためには、電子署名と電子証明書、偽造・改ざん防止のためのタイムスタンプを契約当事者双方で準備し、契約締結時に電子契約書に付与する必要があります電子署名は印鑑の代わりに押印の役割を果たし、電子証明書によって本人性を担保します。そして、タイムスタンプとは、特定の時刻に電子データが存在していたことと、それ以降に改ざんされていないことを証明する技術です。 

つまり、電子契約は、その真正を確保するための電子署名やタイムスタンプ等の導入コストの発生、契約の相手方についても同様のシステム構築が必要なほか、社内においても電子契約導入による業務フローの見直し、社内規定・マニュアルの整備が必要となります。 

 また、電子契約を電子データのまま税務上適切に保存するためには、電子帳簿保存法にある保存要件のクリアもハードルの一つとなります。 

2)電子取引に係る書類の保存要件 

税務上、インターネットや電子メールを通じて契約書などの取引情報を授受する取引を「電子取引」といいます。電子契約や後に紹介する電子領収書はこの「電子取引」に係る取引情報に該当し、電子データのまま税務上適切に保存するためには電子帳簿保存法にある以下の保存要件を満たす必要があります。要件を満たせない場合は別途紙で印刷して保存することになるため、ペーパーレスによるメリットを享受できません。なお、納税地での保存期間は7年間(欠損金の繰越控除がある法人は最長10年間)となります。 

①不正防止の措置…タイムスタンプの付与や事務処理規程があること(電帳施規8①一) 

②関係書類の備付…マニュアルが備え付けられていること(電帳施規3①三) 

③見読可能性の確保…納税地で画面とプリンターで契約内容が確認できること(電帳施規3①四) 

④検索機能の確保…主要項目を範囲指定および組み合わせで検索できること(電帳施規3①五)  

電子帳簿保存法は奥が深いので詳細は割愛していますが、帳簿書類の種類や原本の形式によって保存の要件が異なり、基本的には税務署の事前承認が必要なものがほとんどです。今回のインターネットやメールで完結させる電子契約等の「電子取引」については、上記の要件さえ満たせば税務署への事前承認は不要です。 

3電子契約できない契約もある 

現在ではほとんどの契約において電子化が許可されており電子契約が可能ですが、法律によって電子契約がいまだに利用できない契約も一部存在しますので注意が必要です。代表的な契約の種類は以下の通りです。 

・投資信託契約の約款(投資信託及び投資法人に関する法律5条) 

・訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引における書面交付義務(特定商品取引法4条など) 

・定期借地契約(借地借家法22条) 

・定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項) 

電子領収書について 

1領収書も電子発行で印紙税不要? 

領収書等は名称を問わず金銭等の引渡しについて、受領事実を証明するために作成し、その支払者に交付する証拠証書として通常は課税文書「金銭または有価証券の寄託に関する契約書(17号文書)」に該当し、発行側に納税義務があります。しかし、領収書等についても、電磁的記録で作成し交付すれば記載金額が5万円以上であっても印紙税は不課税になります。そのため、通販などでよくある領収書のWEB発行やPDFのメール送付には印紙税はかかっていません。また、領収書や注文請書など相手方に交付することが目的の文書については、スキャンデータをメールやファックスで送った場合も、実際には現物の文書が交付されていないため課税文書を作成したことにならず、印紙税は不課税となります。 

この電子領収書等についても、ペーパーレスによる印刷代や保管・郵送コストの削減、業務効率化等も見込めるため印紙税以外にも多くのメリットがあります。しかし、発行側・相手側ともに電子データでそのまま保存する場合には電子契約の項目で紹介した電子帳簿保存法の要件クリアがハードルとなります。また、相手側が電子文書をPC上で開けないケースや受け取れないケースがあるため、トラブルを避けるためあらかじめ取引前に領収書等を電子化している旨を伝えておくと良いでしょう。 

2電子領収書の効力 

 そもそも領収書は、支払った側から求められたら交付する義務はありますが、必ず交付しなければならいというものではありません。ですが、「支払った」「支払ってない」等のトラブルが発生した時に、領収書があれば金銭の受領事実を証明する重要な証拠として提示できるため、トラブル防止のためにも交付すべきものと言えます。 

 また、領収書に印鑑を押印することは、偽造防止の観点や信頼担保の一環として商取引の慣習となっていますが、法律で義務付けられているものではありません。 

領収書の記載事項については最低限「宛名」「日付」「金額」「但し書き(取引の内容)」「発行者名及び住所」の記載があれば税務上領収書として認められるため、押印がなくとも経理処理が可能です。 

つまり、領収書は紙発行でも電子発行でも正確に必要な記載事項を記載していれば、押印(=電子証明とタイムスタンプ)がなくとも領収書としての効力があります。 

このことから、電子証明やタイムスタンプのシステムが無くとも、領収書はPDFをメール送付し控えは印刷して紙で保存、という方法でも領収書の効力を保ちつつ印紙税を不要にできます。(電子契約の場合は電子署名とタイムスタンプがないと契約書としての効力がないためこの方法は不可能です。) 

ですが、法的には問題ないものの、やはり偽造の防止や証拠として信頼性を高め、不要な疑いを避けるためにも、特別な事情がない限り押印(=電子証明とタイムスタンプ)は省略しないことをお勧めします。 

【まとめ電子文書のメリット・デメリット 

1)メリット 

・電子文書は「文書」ではないため印紙税は不要 

・ペーパーレス化によるコスト削減(紙代、郵送代、保管コストなど) 

・ペーパーレス化や規程類整備による業務の効率化 

・契約業務の可視化と規定類整備によるコンプライアンスの強化 

2)デメリット(ハードル) 

 ・電子署名、タイムスタンプ等のシステム導入 

 ・社内の業務フロー、事務処理規定の見直し(社内の理解) 

 ・電子化に係るシステムのマニュアル整備 

 ・電子化に対する取引先の理解 

 ・電子帳簿保存法に基づく運用 

 ・電子契約できない書類もある 

シェアする

ニッシー@税理士をフォローする

関連記事

お気軽にお問合せ・
ご相談ください