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(税務相談)子会社に対する貸付金の放棄

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休眠状態の子会社(持株比率80%)がありますが、当期中に清算を予定しています。弊社からの借入がほとんですが、債務超過が何年も前から続いており、毎期、新規の貸付を行っておりましたが、回収は事実上不可能と判断し、免除予定です。当該貸付金に対する税務上の取り扱いを教えてください。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
論点
当該債権放棄額が、貸倒損失として処理できるのか、それとも寄付金として処理されてしまうかが問題となります。
具体的には、法基通9-6-1において、貸倒損失として損金の額に算入することのできる額についての基準を定めており、今回のケースの場合には、以下のいずれの要件に該当するか否かを確認します。
9-6-1(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
9-6-1(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
また9-6-1(2)、9-6-1(4)の要件を満たさない場合においても、親子会社間の取扱いとして9-4-1子会社等を整理する場合の損失負担等の要件を満たす場合には貸倒損失として処理ができます。
9-6-1(2)の検討
基本通達9-6-1(2)では、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合」に限定して記載されており,今回のように、当事者間の合意に基づく金銭債権の消滅による貸倒損失の損金算入については適用がないため、貸倒損失の損金算入を認められません(平成29年1月19日判決東京地方裁判所民事第51部平成25年(行ウ)第414号法人税更正処分取消請求事件)。
9-6-1(4)の検討
今回のように合意に基づく場合には、その内容の合理性や客観性が認められれば、9-6-1(2)の検討が認められなくても9-6-1(4)の適用があります。
9-6-1(4)では、「債務超過の状態が相当期間継続」、「金銭債権の弁済を受けることができないと認められる」「書面により債務免除額を明らかにされた」の3つの要件を満たす必要があります。
「債務超過の状態が相当期間継続」
「債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいいますから、形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なることになります。」と国税庁質疑応答サイトでは記載されておりますが、質疑では「3年ほど前から」となっているため一応の参考の期間とはなります。
「金銭債権の弁済を受けることができないと認められる」
金銭債権の貸倒損失を損金の額に算入するには,単に当該金銭債権の債務者につき債務超過の状態が継続しているだけでは足りず,当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならない(平成29年1月19日判決東京地方裁判所民事第51部平成25年(行ウ)第414号法人税更正処分取消請求事件)。
債務者の資産状況,支払能力等の債務者側の事情のみならず,債権回収に必要な労力,債権額と取立費用との比較衡量,債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情,経済的環境等も踏まえ,社会通念に従って総合的に判断されるるべきものであると解される(最高裁平成14年(行ヒ)第147号同16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2637頁参照)。
【結論】
以上から、今回のケースでは「債務超過の状態が相当期間継続」の要件は満たす可能性はありますが、毎期新規の貸付を行っていることから、債権回収に必要な労力は要しているとは言えず、「金銭債権の弁済を受けることができないと認められる」の要件は満たさないことから、貸倒損失の損金算入は認められないと考えられます。
9-4-1 子会社等を整理する場合の損失負担等
親会社がその企業グループの財務改善計画の一環として行った子会社の事業譲渡及び解散に伴って当該子会社に対して有する債権の全額を放棄した場合において,当該子会社の資産状況や支払能力等,債権者らの当該子会社との企業グループ関係や債権回収に未着手の状況等,当該親会社の主要取引銀行による財務改善要請の内容等の経済的環境等に加え,当該親会社が当該事業譲渡の内容や条件について主体的かつ自由に判断できる立場にあったこと等に照らし,当該親会社による当該債権の放棄は経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いという判示の事情の下では,当該債権の額につき,法人税法37条1項所定の「寄附金の額」に該当しないものとして損金の額に算入することはできない(平成29年1月19日判決東京地方裁判所民事第51部平成25年(行ウ)第414号法人税更正処分取消請求事件)。
【結論】
今回のケースも親会社からの貸付がほとんであり、例え債務超過の状態の子会社を遊休状態にしていたとしても、通達に記載のあるような経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いため、貸倒損失の損金算入は認められないと考えられます。
参考判例
平成29年1月19日判決東京地方裁判所判決
参考条文
法人税法第22条
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
法基通9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
法基通9-4-1 子会社等を整理する場合の損失負担等
法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
(注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。