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印紙税の節約術まとめ(記載金額編)

目次
本日は、契約書等の記載の方法を少し工夫するだけで印紙税を節約する方法を紹介していきたいと思います。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
記載金額で印紙税額が変わるもの
印紙税は印紙税法で定められた20種類の「課税文書」に課税され、その税額は文書の種類ごとに一律のものと記載金額によって変動するものの2パターンに分けられます。記載金額によって印紙税額が変動する以下7種類の文書については、一定額未満で非課税となるものや一定の段階ごとに増額していくものなど、記載金額の書き方を工夫することで印紙税の節約につながることがあります。
①1号:不動産の譲渡・消費貸借等に関する契約書
②2号:請負に関する契約書
③3号:約束手形、為替手形
④4号:株券又は投資信託等の受益証券
⑤15号:債権譲渡又は債権引受けに関する契約書
⑥16号:配当金領収書、配当金振込通知書
⑦17号:売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書
なお、記載金額とは、「契約金額、券面金額その他当該文書により証されるべき事項に係る金額として当該文書に記載された金額」とされています(印紙税法別表第一の課税物件表の適用に関する通則4)。つまり、契約書や領収書に書かれた金額のことですが、単価と数量だけ記載されているものや、金額は見積書の通り、として明確な記載金額がないものなど多種多様であるため、その文書の内容に応じて一定のルールに従って記載金額がの所属が決まります。そして、この一定のルールをうまく利用して印紙税額を節約しよう、というのが今回のテーマです。
消費税額を区分記載する
結論、消費税がかかる取引については、消費税額がいくらか、見てわかるように記載していれば印紙税が有利になります。あくまで消費税額は「金額」であって「税率」ではないことに注意しましょう。
具体的には、消費税額等が区分記載されている場合又は税込価格と税抜価格の両方が記載されていること等により、その取引における消費税額等の金額が明らかな場合には、その消費税額等の金額は記載金額に含めないこととされています(1号、2号、17号文書のみ)。
つまり、消費税がのる前の本体価格が加減算で分かるような記載をしていれば消費税額を含めずに記載金額として良いということです。
例1:領収書(17号)の場合
①商品代金53,900円(消費税込み)⇒印紙税200円
②商品代金53,900円(税抜金額49,000円)⇒非課税
②商品代金53,900円(うち消費税等4,900円)⇒非課税
③本体価格49,000円 消費税等4,900円 合計53,900円 ⇒非課税
例2:請負契約書(2号)の場合
①請負金額1,100万円(消費税等含む)⇒印紙税2万円
②請負金額1,100万円(消費税等10%含む)⇒印紙税2万円
③請負金額1,100万円(消費税等100万円含む)⇒印紙税1万円
④請負金額1,000万円(消費税別)⇒印紙税1万円
ここでのポイントは請負契約書の「消費税別」(例2④)という記載方法です。この方法でも本体価格が明記されているため本体価格が記載金額となります。また、消費税率が変わった場合、③のように消費税の金額を明記していると金額改定に係る変更契約書等を作成する必要があるため、「消費税別」とすることで柔軟に対応することができます。
記載金額を分割する
記載金額によって印紙税額が変動する課税文書については、その記載金額を分割して複数の課税文書にすることで印紙税の節約に繋がることがあります。
例えば、記載金額が段階的に増加する領収書(17号)の分割発行がイメージしやすいかと思います。1,100万円の商品代金を受領した場合、本来4千円の収入印紙が必要ですが、1,000万円と100万円の2枚に分割すると2200円(2千円+200円)の収入印紙で済みます。印紙税は記載内容を形式的に判断するため、実質的な売上代金1,100万円ではなく、形式的な記載金額1,000万円と100万円を別々に売上代金と考えます。
契約書の場合では、借入金の契約書をイメージすると、1,000万円の借入について、本来1万円の収入印紙が必要ですが、500万円ずつに分割して契約書を作ると合計4千円(2千円+2千円)の収入印紙で済みます(軽減措置は便宜的に省略) 。
また、複数の内容の契約を一つの契約書にまとめる場合も、合計金額ではなくそれぞれの金額を明記した方が有利になることがあります。特に契約内容に課税文書と不課税文書が混在しているものに有効です。
例えば、ソフトウェアを1,000万円で販売し、併せて改良費500万円の契約をした場合は、以下のように個別明記した方が有利になります。ソフトウェアの売買契約は不課税文書、改良は請負契約(2号文書)として課税文書となります。
・「ソフトウェア代金及び改良費1,500万円」と合計記載した場合
⇒課税文書となる改良費の取引金額が不明のため合計額1,500万円が記載金額となる(印紙税2万円)
・「ソフトウェア代金1,000万円、改良費500万円」と分割記載した場合
⇒課税文書となる改良費の取引金額が明確なため500万円が記載金額となる(印紙税2千円)
このように領収書や契約書を分割する方法は、税務上は特に問題ないのでコスト削減には有用かと思います。注意点としては、特に領収書については発行側も受け取った側も取引の総額がわかり難くなり、会計処理の判断(特に交際費や固定資産など)を誤ってしまうリスクがあるためその点注意しなければなりません。
変更契約は変更差額のみを記載
直近ですと消費税率が変わったことや感染症の影響で、契約内容が変更となり契約書を結びなおしたというケースが多いのではないでしょうか。一言で契約内容の変更と言っても、契約の目的物の変更、契約金額の変更など様々なケースがあります。このような元々の原契約があってその内容を変更する変更契約書は、印紙税法で定められている重要な事項※を変更するものについて、原契約の所属文書を参考にして課税文書の判定を行います。例えば、原契約が請負に関する契約書(2号文書)の場合、契約金額を変更する文書であれば、重要な事項の変更になるため、変更契約書に印紙の貼付が必要になります。しかし、合意管轄を変更する文書であれば、重要な事項を変更にならないため、印紙の貼付は必要ありません。
※別表第2 重要な事項の一覧表(国税庁HP)
このように課税文書である原契約の契約金額を変更する場合には、その変更契約書は課税文書になるのですが、その記載金額の特定方法について、変更前の契約金額を記載した原契約書が作成されていることが明らかであるか否かによって以下のように取り扱いが異なります。
①変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らか(変更契約書に変更前の契約書の名称、文書番号または契約年月日等、変更前契約書を特定できる事項の記載があるような場合等)
・変更差額が文書から読み取れる場合 ⇒ 差額が記載金額(減額は記載金額なし)
・変更後の金額のみ記載さされている場合 ⇒ 変更後の金額が記載金額
②変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかでない
・変更後の金額が文書から読み取れる場合 ⇒ 変更後の金額が記載金額
・変更差額のみが記載されている場合 ⇒ 差額が記載金額
内容は少し簡略化していますが、いずれの場合も変更差額のみを記載していれば、その差額分のみが記載金額となるため、印紙税が有利になります。
交換契約は交換差金のみを記載
不動産取引等でたまに見かける交換取引ですが、これも交換対象物の価額の差額(交換差金)のみを記載することで印紙税が有利になります。
例えば、Aの土地5,000万円とBの土地5,100万円を交換し、AはBに差額100万円を支払う、という契約があった場合、そのまま上記の通りに契約書に記載すると金額が大きい5,100万円が記載金額となり6万円の収入印紙が必要になります(1号文書)。ここで取引上特に問題がなければ、それぞれの土地の価額を省略し、金額の記載を100万円だけにすれば、記載金額100万円として1,000円の収入印紙で済みます。不動産関係の取引は特に契約書の数も金額も多くなりやすいので有用かと思います。
なお、交換とはニュアンスが異なりますが債権債務の相殺についてです。売上代金500万円を自己の買掛金400万円と相殺して100万円を受け取ったというような領収書については、相殺した400万円の部分は売掛債権の消滅を証明するものであって金銭の受取事実を証明するものではないため記載金額に含めないとされています。そのため、実際の受領額は100万円であることをわかるように記載していれば、相殺後の100万円のみが記載金額となります。