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贈与税の基礎と実務上の留意点

目次
はじめに
昨今、将来への不安が増すなか、万が一を考えて、資産運用や相続税の対策として、まず「生前贈与」を検討される方も多いかと思います。この「生前贈与」は「贈与税」の仕組みを理解せずに方法を間違えるとかえって損となることがあるので十分に注意したいところです。また、「贈与税」は人から財産をもらったときに、もらった人に対して発生する税金ですが、それを知らずに申告が漏れてしまい、無申告加算税や延滞税等が相まって後から大きな負担となるケースも多い税目です。ですので、今回は贈与税の基礎知識と注意すべきポイントを解説していきます。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
贈与税とは?
贈与税は「(生きている)個人」から財産をもらったときに、その財産に課税される税金で、その財産をもらった人(受贈者)が、財産をもらった翌年2月1日から3月15日までに申告と納付をする義務があります。よく勘違いされるのが、贈与税を課されるのは「受贈者(贈与を受けた人)」であって「贈与者(贈与した人)」ではないので、特に親族間で贈与する場合は贈与される側の負担について十分に配慮する必要があります。
贈与税の位置づけについて、贈与税には「贈与税法」という個別の法律があるわけではなく、生前贈与による「相続税回避の防止」のため、相続税の補完的な税の性質を持つことから、「相続税法」の中で相続税とともに規定されています。相続税も贈与税も、個人から個人への「財産の移転」に着目して課税されますが、その要因が、亡くなった人(被相続人)から財産(遺産)を引き継いだ場合は相続税、生前中の個人から財産を贈られた場合は贈与税、という違いがあります。以下に相続税と贈与税の違いを簡単にまとめましたのでご参考ください。
なお、贈与税の課税方式には、一年間に贈与を受けた財産の合計額をもとに毎年計算する「暦年課税制度」と、要件を満たせば相続発生時まで税金の支払いを先延ばしできる「相続時精算課税制度」の2種類(選択式)があります。一度相続時精算課税制度を選択した場合、その後の贈与も、すべて相続時精算課税制度が継続適用され、暦年課税制度には戻れないのでご注意ください。また、贈与税の税率は、暦年課税制度では、両親や祖父母等からの贈与(特例贈与財産)に適用できる「特例税率」と、それ以外の贈与(一般贈与財産)に適用する「一般税率」の2種類の累進課税となっており、相続時精算課税制度は一律20%となります。
【相続税と贈与税の比較表】

贈与税の目的が「相続税回避の防止」とされていることから、生前贈与が相続税対策に有効な手段であることがわかります。一見すると相続税よりも贈与税の方が、税率が高いですが、贈与税の①基礎控除額(年間110万円)や後述の非課税制度等をうまく利用して、財産を計画的に分割して贈与することで、最終的な相続税の負担を抑えることができます。また、財産(遺産)の総額が、相続税の①基礎控除額以下であれば、相続税は発生しないので、あえて税務面から生前贈与をする必要はありませんが、はやめに財産を引き継ぎたい場合や値上がり等が懸念される場合は生前贈与を検討した方がよいでしょう。
なお、贈与税は、あくまで血縁関係なく「個人」から「個人」へ財産を渡したときに発生します。そのため、会社など「法人」から「個人」へ財産をもらった場合は、贈与税ではなく、所得税(一時所得や給与所得)の課税対象となります。また、「個人」から「法人」へ贈与した場合は、贈与者側に所得税(みなし譲渡所得)が発生する可能性がありますのでご注意ください。
2つの課税方式とメリット・デメリット
①暦年課税制度
暦年課税制度とは、受贈者が暦年中(1月1日~12月31日)に個人から受け取った財産の合計額が基礎控除額110万円を超えた場合、その超えた額に対して贈与税が課税される制度で、相続時精算課税制度の申請をしていない贈与者からの贈与財産は、この暦年課税制度で一括計算します。税率は2種類の累進課税で、両親や祖父母等から20歳以上の子や孫等への贈与(特例贈与財産)は「特例税率」、それ以外の贈与(一般贈与財産)は「一般税率」を適用することとなります。
以上のことから、暦年課税制度は、毎年110万円までは贈与税がかからない仕組みとなっているので、毎年110万円やそれに近い額の贈与を、長期的かつ計画的に繰り返すことにより、無税又は低い税負担で贈与を行うことができます。
ただし、相続開始前3年以内の贈与は、贈与が成立していても、相続人に対する贈与財産は、相続財産に加算して相続税を計算することになるので、相続税の節税効果を得るためには早めの対策が必要です。なお、この場合、孫など結果的に相続人にならなかった人への贈与については、相続時に遺贈を行わなければ、相続財産に加算されることはないので、節税効果を維持することができます。
②相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、簡単に説明すると、相続税と贈与税が一体化した制度で、贈与を相続財産の前渡しととらえて、税金の支払いを相続発生時まで先延ばしする仕組みとなっています。制度選択時から選択した贈与者ごとに累計して2,500万円(特別控除額)までの贈与は非課税となり、それを超えた額に対して一律20%の贈与税が課税され、相続発生時に、相続財産にこれまでの贈与財産を加算して相続税を計算して、そこから既に支払った贈与税があれば差し引く、という制度となっています。
また、この制度は、(その年の1月1日時点で)60歳以上の両親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与にのみ適用可能で、受贈者が贈与者ごとに選択し税務署に申請することで適用できますが、一度選択すると、選択した年以後その贈与者が亡くなる時まで継続適用され、暦年課税制度に変更することはできません。
以上のことから、相続時精算課税制度は、最終的に相続税の課税対象となるため、相続税への直接的な節税効果は低いですが、2,500万円というまとまった額の財産を前渡しできる制度なので、相続税を納める必要がない方やまとまった財産を早期に引き継ぎたい方には有効といえます。また、相続税への直接的な節税効果は低いですが、相続税の計算では「贈与時の時価」で贈与財産を評価するので、不動産や株式など贈与時に比べ相続時に値上がりしていそうな財産がある場合には、事前に贈与することで結果的に相続税を節税できる可能性があります。
なお、特別控除額2,500万円を使用するには「期限内申告」が条件となるため、3月15日までに申告できなかった場合、その年の贈与額×20%の贈与税が発生するので注意が必要です。
③制度比較

贈与時の注意点
贈与をする際には、注意しなければならないポイントがいくつかあります。これを押さえておかないと、せっかく相続税対策で贈与をしたのに、それが無効となり、思わぬ税負担やトラブルにも繋がってしまいますので必ず把握しておきましょう。
①贈与契約書を必ず作成する
贈与は、贈与者が無償で財産を渡す意思表示をし、それを受贈者が受託することによって成立します。この贈与の成立が客観的に立証できない場合、税務署に贈与を否認され、贈与額に対して相続税が課税されてしまう可能性があるので、贈与が成立している証拠を作っておく必要があります。
そのため、贈与をする際には、贈与の成立を事後的に証明するための証拠として、贈与者と受贈者の双方が署名押印する贈与契約書を必ず作成しておきましよう。
②受贈者が贈与の事実を知り、自由に活用できる必要がある
贈与の成立には、受贈者が受託することも要件です。この受託により、贈与財産は贈与者ではなく受贈者の所有物となります。そのため、贈与者だけがその事実を知っていて、受贈者がその財産を自由に使えない場合は、贈与となりません。
例えば、親の管理のもと、子どもに内緒で子ども名義の口座を作り、そこにお金を入れて贈与の形を取っている場合、「名義預金」として贈与を否認され、相続税の課税対象となります。
③申告は受贈者がする
贈与税の申告と納税を行うのは、「受贈者」であって「贈与者」ではないので、特に親族間で贈与する場合は、贈与される側の負担について十分に配慮する必要があります。なお、贈与を受けたとしても、暦年課税制度では、年間110万円の基礎控除額の範囲内であれば申告不要です。相続時精算課税制度や非課税制度を利用する場合は、納税額がない場合であっても申告が必要なのでご注意ください。
また、年間110万円の基礎控除額は、その受贈者が贈与されたもの全体(相続時精算課税制度によるものを除く)に対するものです。そのため、複数人から贈与を受ける場合は、その合計額で判断するという点に注意しましょう。
④意図せず贈与税がかかるものに注意(みなし贈与)
贈与税は贈与により取得した財産に対して課税されるのが原則ですが、以下のものについては、贈与とみなされて贈与税の課税対象となるのでご注意ください。
・掛金を負担していない生命保険や損害保険の満期保険金を受け取った場合
・著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合
・対価を支払わないで借金などの債務を免除してもらった場合
・対価を支払わないで不動産や株券の名義を自分に変更してもらった場合
・不動産を取得する際、資金の負担割合と異なる割合で持分登記をした場合
・客観的に返済不能と思われる多額の金銭を、親族から無利子かつ催促なしのある時払いで借りた場合
など
⑤現金手渡しで贈与しない
現金手渡しの贈与は、贈与した証拠が残らないため、銀行振込で贈与するようにしましょう。先述の通り、贈与があった事実を客観的に立証できない場合、税務署に贈与を否認され、贈与額に対して相続税が課税されてしまう場合があります。
⑥毎年同時期に同額の贈与をしない
毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことを「定期贈与」といいます。この定期贈与は、毎年の贈与金額が110万円以下であっても、「定期金に関する権利」の贈与を受けたとして、贈与額の合計額に対してまとめて贈与税が課税されます。
つまり、毎年の贈与金額が110万円以下であっても、毎年同じ時期に、同じ金額で贈与を繰り返していると、定期贈与とみなされ、全額が贈与税の課税対象となってしまう恐れがあります。
また、数年分の贈与をまとめて贈与契約書を作成すると、初年度にその総額が贈与税の課税対象となってしまいます。ですので、贈与の際は、贈与の都度、時期と金額を調整して贈与契約書を作成するようにしましょう。
⑦相続開始3年以内の贈与は相続財産となる
先述の通り、相続開始前3年以内の贈与は、贈与が成立していても、相続人に対する贈与財産を相続財産に加算することになり、すでに支払った贈与税を相続税から控除します。なお、この場合、孫など結果的に相続人にならなかった人への贈与については、相続時に遺贈を行わなければ、相続財産に加算されることはないので、節税効果を維持することができます。
贈与にならないもの
財産の性質や贈与の目的によっては、社会通念上、贈与にならず、贈与税がかからないものがあります。例えば、親から受ける生活費や教育費、その他祝儀金や弔慰金など社会通念上妥当と認められる範囲のものは贈与税の課税対象にはなりません。
この社会通念上妥当と認められる範囲というのがポイントで、税法特有の抽象的な表現ですが、一般的な金額水準で常識的に違和感のないものは非課税ということです。例えば、親から子に生活費を仕送りしている場合、贈与者(親)と受贈者(子)の財産や収入の状況やバランスで判断されます。子が会社を経営していて親よりも収入があれば、子が親から生活費を受け取るのは不自然といえるため非課税とはならないでしょう。また、誕生日プレゼントで土地をあげてしまったり、お年玉で札束をあげてしまったりしても常識的ではないため贈与税の課税対象となるかと思います。
以下は、贈与税の対象とならないものの例となります。
①扶養義務者から受ける「生活費」
扶養義務者(配偶者、父母、祖父母、子、孫、兄弟姉妹など)から受ける生活費で、通常必要と認められる範囲内で必要な都度、必要な分だけ渡しているものは贈与税の課税対象となりません。この生活費とは、通常の日常生活を営むのに必要な費用で、治療費、養育費などを含み、具体例は以下の通りです。
・子の生活費の仕送り
・一人暮らしをしている子の家賃
・結婚式、披露宴の費用
・新婚生活の生活費(新婚後の家具家電等の購入費用など)
・出産費用(出産の検査費用、入院費用、不妊治療の費用、ベビー用品代など)
など
重要なのはタイミングと金額で、必要な都度、必要な分だけ渡すのが大切です。数年分まとめての仕送りや、生活に必要以上の多すぎる仕送りにより貯金や投資に充てられていた場合は、贈与税が課せられる可能性がるので注意してください。
②扶養義務者から受ける「教育費」
扶養義務者から受ける教育費で、通常必要と認められる範囲内で必要な都度、必要な分だけ渡しているものは贈与税の課税対象となりません。この教育費とは、義務教育費に限られず、教育上通常必要と認められる費用全般を指します。具体例は以下の通りです。
・学資や教材費
・文具費用
・通学のための交通費
・学級費
・修学旅行参加費
・受験費用
・学習塾の費用 など
こちらも重要なのはタイミングと金額で、必要な都度、必要な分だけ渡すのが大切です。分割払いとなっている大学4年間の学費を、4年分一括して受贈者に渡すと贈与税が課せられる可能性があるので、学校への支払いが必要なタイミングで、必要な分を贈与者から直接学校へ支払うようにした方が良いでしょう。
③社交上必要と認められる贈与
扶養義務者以外からの贈与でも、社会通念上妥当と認められる内容と金額のものは贈与税の課税対象となりません。具体例は以下の通りです。
・祝儀金(入学祝い、結婚祝い、出産祝いなど)
・弔慰金
・香典
・花輪代
・年末年始の贈答
・お見舞金 など
④その他
公益・社会福祉を目的とする贈与や、法人が贈与者又は受贈者となる贈与は贈与税の課税対象となりません。
・宗教、慈善、学術など公益を目的とした事業への贈与
・特定公益信託から奨学金を目的として支給される金品
・自治体から精神、身体に障害等を持つ方への給付金
・離婚時の慰謝料、養育費、財産分与(金額が過大な場合を除く)
・交通事故等の損害賠償金(金額が過大な場合を除く)
・法人から個人への贈与(所得税の課税対象)
・個人から法人への贈与(法人税の課税対象)
など
贈与税の非課税制度
基礎控除以外にも贈与税が非課税となる制度があります。非課税となる枠が大きく、うまく活用できれば効果も大きいので、その内容を簡単に紹介します。具体的な要件等は国税局のURLを添付しておりますのでそちらをご参考ください。
①夫婦間の居住用不動産の贈与に対する配偶者控除の特例(おしどり贈与)【最高2,000万円】
婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産やそれを取得するための資金を贈与する場合には、配偶者控除の特例を活用できます。配偶者控除の特例では、贈与税の基礎控除110万円に加え、最高2,000万円までの贈与にかかる贈与税が非課税となります。
[参考]夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除(国税庁HP)
②住宅取得等資金の贈与【最高3,000万円】
両親や祖父母から子や孫に対して住宅取得にかかる資金を贈与する場合には、一定の要件を満たすことで、住宅取得等資金の贈与非課税の特例が活用できます。この特例では、住宅の種類や契約締結日により非課税限度額が異なり、要件も複雑なので注意が必要ですが、贈与税の基礎控除110万円に加え、最高3,000万円までの贈与にかかる贈与税が非課税となります。ただし、贈与された資金のうち自宅の新築や購入において残金が生じた場合には、その残金は贈与税の課税対象となるのでご注意ください。

[参考] 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(国税庁HP)
③教育資金の一括贈与【最大1,500万円】
両親や祖父母から30歳未満の子や孫に対して教育資金を一括贈与する場合には、教育資金の贈与非課税の特例が活用できます。この特例は、贈与税の基礎控除110万円に加え、最高1,500万円(学習塾や習いごとなど学校等へ直接支払われるもの以外は最高500万円)までの贈与にかかる贈与税が非課税となります。ただし、30歳になるまでに使い切れず残ってしまった教育資金については贈与税の課税対象となりますのでご注意ください。
この特例は、贈与者は金融機関に専用の口座を開設し、受贈者が必要なときを必要な金額を引き出して運用していく形態になるため、適宜領収書等を金融機関に提出する手続きが必要となります。また、この口座に残金がある状態で贈与者が亡くなってしまった場合、その残金は相続財産となります。

【令和3年税制改正変更点】
・年齢制限を撤廃したうえで、贈与者死亡時に残額がある場合に相続税の対象となります。
・受贈者が孫・ひ孫の場合には2割加算の適用となります。
[参考] 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税(国税庁HP)
④結婚子育て資金の一括贈与【最高1,000万円】
両親や祖父母から20歳以上50歳未満の子や孫に対して結婚や子育てのための資金を一括贈与する場合には、結婚・子育て資金の贈与非課税の特例が活用できます。この特例は、贈与税の基礎控除110万円に加え、最高1,000万円まで(うち結婚資金分は最高300万円まで)の贈与にかかる贈与税が非課税となります。
対象となる資金の例としては、挙式・婚礼費用や新居費用、出産費用、子どもの医療費・保育料などが対象となりますが、50歳までに使い切れずに残ってしまったものについては贈与税の課税対象となりますのでご注意ください。
この特例は、贈与者は金融機関に専用の口座を開設し、受贈者が必要なときを必要な金額を引き出して運用していく形態になるため、適宜領収書等を金融機関に提出する手続きが必要となります。また、この口座に残金がある状態で贈与者が亡くなってしまった場合、その残金は相続財産となります。

【令和3年税制改正変更点】
・受贈者が孫・ひ孫の場合には2割加算の適用となります。
・対象年齢が18歳以上50歳未満に変更となります。
[参考]直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税(国税庁HP)
⑤特定障害者への贈与【最大6,000万円】
特定障害者の方へ、その生活費や治療費などに充てるために一定の信託契約に基づいて資金を贈与することで、その受益権の価額に対する贈与税が一定額まで非課税となります。具体的には、特別障害者に該当する方は最高6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の方は最高3,000万円までの贈与にかかる贈与税が非課税となります。この特定障害者に対する贈与税の非課税制度を利用するためには、信託会社を介して「障害者非課税信託申告書」の提出が必要なります。

[参考] 障害者と税(国税庁HP)