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法定調書の基礎と作成上のポイント

目次
はじめに
年末調整の作業も終えホッとしたのも束の間、年も明け、今度は「法定調書」の作成時期となりました。ピンとこない方も多いと思いますが、「法定」というくらいなのでかなり重要で、会社や個人事業をやっていれば必須な書類となります。種類も多く、年に一度くらいしか触れる機会がないので、今回は法定調書の基礎知識とポイントを解説していきます。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
法定調書とは?
法定調書とは、簡単にいうと暦年ベースで「誰にどのような名目でいくら支払ったか」等を記載した書類で、源泉徴収票や支払調書など所得税法や相続税法の規定によって、税務署への提出が義務付けられている書類の総称を言います。後述しますが、法定調書には相当数の種類があり、その提出義務者はそれら必要なものを必要なタイミングで税務署に提出する義務があります。義務なのでもちろん、未提出や虚偽記載があれば1年以上の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(所法242⑤)。
なぜ税務署への提出が義務付けられているかというと、「調書」という名が示すように、税務署がその後の調査に活用するためです。税務署は「誰にどのような名目でいくら支払ったか」を知ることで、特に個人に対して誰がどんな収入を得ているか把握して脱税などの不正行為を防ぐ仕組みとなっています。
例えば、法定調書の一種である「給与所得の源泉徴収票」の場合、従業員等に配布されたあと、基準を満たしたものは翌年1月末までに税務署に提出することになっています。これに基づいて税務署は、その年の年末調整の数値に異常はないか、その後の確定申告の数値は会社から提出されたものと不整合はないか、というように個人の所得税の整合性を確認できる仕組みになっています。仮に、不整合があった場合は、「お尋ね(税務署からの質問状)」や「税務調査」の引き金となるので間違えないようご注意ください。
法定調書の種類と期限
法定調書は全部で60種類あり、提出義務者は、法人個人関係なく基本的にはその対象となる支払をした者となります。また、提出期限は、個別提出するものを除き、基本的には暦年(1月1日~12月31日)ごとに集計をしたものを翌年1月31日まで(今回は2月1日)に提出することになっています。法人の決算期とは無関係に暦年ベースなので集計作業は結構大変です。なお、基本的な提出方法は、「支払先別の明細(源泉徴収票や支払調書)」にその金額をまとめた「合計表」を添付して提出します。
代表的な法定調書の概要と留意点
実務でよく登場する代表的な法定調書の簡単な概要を解説します。詳細な法定調書の記載方法等については、以下の国税庁HPをご参考ください。金額の集計方法や消費税の取扱いなど、共通的なポイントは「5.作成上のポイント」で確認します。
[参考] 令和2年分給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引(国税庁HP)
①給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票は、1年間に給与や賞与等を支払ったすべての者に対して、本人に交付する義務があります(退職者には退職日から1ヶ月以内に交付)。
このうち、次の条件に当てはまるものは、税務署への提出義務(翌年1月31日まで)があります。

なお、住民税の計算のため、税務署以外にも「給与支払報告書」という名称のほぼ同内容のものを、従業員等の住所地の市区町村に全者分提出(翌年1月31日まで)する必要があるのでご注意ください。
②退職所得の源泉徴収票
退職所得の源泉徴収票は、その年に支払いの確定した退職手当等について、その退職者本人に交付(退職日から1ヶ月以内)する義務があります。
このうち、法人の役員(顧問、相談役等を含む)に対するもののみ税務署への提出義務(1月31日まで)があります。
また、住民税の計算のため、税務署以外にも「特別徴収票」という名称のほぼ同内容のものを、退職者の住所地(退職した年の1月1日現在)の市区町村に全者分提出(退職日から1ヶ月以内)する必要があるのでご注意ください。
ただし、死亡退職の場合は「退職手当金等受給別支払調書」を作成するため、退職所得の源泉徴収と特別徴収票の作成は不要です。
③報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
この支払調書は、外交員や弁護士、税理士などへの報酬や契約金、作家や画家に対する原稿料や画料などを対象としたものです。対象が広いので、個人に何らかの報酬を支払った場合は、源泉徴収の有無を問わず、この支払調書の作成を検討する必要があります。
同一人に以下の金額を超える報酬等を支払った場合に、税務署へ提出(翌年1月31日まで)しなければなりません。

なお、上記に該当していれば、法人に対するもの(例えば税理士法人への報酬など)や個人への支払いで源泉徴収していないものも対象となりますのでご注意ください。
④不動産関連の支払調書(使用料、譲受け、あっせん手数料)
この支払調書は、事務所家賃や礼金、更新料、仲介手数料等の支払いや不動産の購入など、不動産関連の支払いが対象です。
同一人に以下の金額を超える報酬等を支払った場合に、税務署へ提出(翌年1月31日まで)する必要があります。使用料に関しては、貸主が個人か法人かによって、内容が異なるのでご注意ください。また、不動産の貸主や購入相手が非居住者等(外国人や外国法人)である場合、非居住者等に関連する支払調書となるので次項をご参考ください。

なお、他の支払調書と異なり、提出義務者が「法人」か「不動産業者である個人」に限定されているため、対象となる支払いがあっても不動産業以外の個人事業主の方は提出不要です。
⑤非居住者等関連の支払調書
非居住者等とは、日本に住んでいない外国人である「非居住者」と外国に本店がある「外国法人」のことです。この非居住者等に対して国内源泉所得(日本国内で稼いだ所得)に該当する給与や報酬その他一定の支払いをする場合には、その支払いを受ける非居住者ごとに支払調書を作成し、それぞれ年間支払金額が50万円を超えるものは、専用の合計表とともに税務署に提出(翌年1月31日まで)する必要があります。
以下は、非居住者等に関連する支払調書の提出対象をまとめたのでご参考ください。特に最近は不動産オーナーが外国人の方となっているケースが多いのでご注意ください。

⑥新株予約権関連の法定調書
新株予約権(ストック・オプション)に関連する調書には、ストック・オプションの種類によって課税タイミングが異なることから、主に無償発行の場合の「付与時」と「行使時」に作成するものに分けられ、それぞれその翌年1月31日までに税務署へ提出する必要があります。
特に、税制適格ストック・オプションの場合、その適格要件に「特定新株予約権の付与に関する調書」の提出が求められるため、必ず提出しておく必要があります。
また、有償発行したストック・オプションについては、単に金融商品の取引となり、譲渡するまで課税関係は生じない(譲渡するまで税務署は把握する必要がない)ことから法定調書の作成は不要となります。

作成上のポイント
①記載金額は発生主義?現金主義?
法定調書を作成する上で、一番悩ましいポイントが、記載金額を「発生主義」にするか「現金主義」にするかで、人によって意見が様々なところです。これまでの慣習や会社の方針、支払先と双方合意のうえで「発生主義」か「現金主義」で支払調書を作成している場合は、そのまま無理に変える必要はないかと思いますので以下はご参考程度にお願い致します。
報酬料金等の支払調書の手引きには、「年中に支払が確定した金額」と「そのうち作成日現在で未払の金額」を記載することとなっています。この「確定した金額」の解釈が問題で、例えば、12月発生1月支払いの報酬は、「発生主義」だとその年分の報酬に含めて未払い分の記載も必要、「現金主義」だと翌年分報酬になります。
結論をいうと、どちらの方法も間違ってはいないのですが、支払先側の事情を考慮すすると「現金主義」で処理する方が問題は少ないかと思います。
ポイントは「未払の金額」の記載で、ここの記載がある場合、その支払先が確定申告したときに、その未払いに対応する源泉税額分は還付が保留され、別途手続きが必要となる可能性があるからです。
また、個人(支払先)の確定申告では、収入金額を「発生主義」で記帳します。そのため、「現金主義」で集計記載した支払調書と差額が生じて支払先側に混乱が生じてしまう恐れがあります。ですが、報酬料金等の支払調書は確定申告書に添付する必要はなく、ここに差額が生じていても帳簿上正しく経理処理されていれば税務上問題にはなりませんので、この旨を先方にご理解頂く必要があります。
なお、「現金主義」で記載する場合の未払いの金額は、支払調書作成日時点で支払期限を過ぎて未払いになっている金額となりますので、12月末時点ではないことにご注意ください。また、「現金主義」にしろ「発生主義」にしろ、未払いの金額があるのに、支払先の事情を考慮して記載しないという行為は、虚偽記載となりますのでこちらもご注意ください。
②記載金額に消費税は含める?
法定調書に記載する金額は、先述の通り「年中に支払が確定した金額」を記載し、提出有無の判定もその金額によるところです。つまり、記載金額に消費税等を含めるか否かによって提出有無の判定が変わることになります。
結論をいうと、「消費税込み」でも「消費税抜き」でもどちらでも問題はありません。
原則は「消費税込み」ですが、「消費税抜き」でも摘要欄に消費税額を別途記載すれば良いこととなっています。基本的には「消費税抜き」で記載・判定した方が、提出数が減りますが、別途消費税額を抽出・記載する手間が増えてしまうので、特に調書の数が多い場合は、「消費税込み」で記載・判定を行った方が良いでしょう。
③支払調書の交付は必要?
源泉徴収票は受給者に交付する義務がありましたが、支払調書はその支払い先に対して交付する義務はありません。そのため、極端ですが、税務署への提出対象となるものだけ作成すれば良いこととなります。
確定申告書への添付義務がある一部の法定調書を除いて、基本的に支払調書は確定申告書への添付する必要はありません。ですので、受け取り側は、その年の確定申告の参考資料として交付を希望する方が多いです。
これまでの慣習から全ての支払先に対して交付している法人も多いですが、取引先との関係や事務負担等を考慮して、希望者にのみ作成・交付という方針が一番適切かと思います。
④マイナンバーは必ず記載?
マイナンバー制度の導入により、税務署や市区町村に提出する法定調書には、マイナンバー(個人番号)と法人番号の記載は「義務」となっています。あくまでこの記載は提出分のみで、番号法上の特定個人情報の提供制限を受ける場合があるため、従業員や支払先に対する交付分にはマイナンバー等の記載はしないようご注意ください。また、マイナンバーの入手ができずに、提出範囲となっている法定調書を敢えて提出しない、という行為は仮装隠蔽となってしまいますのでご注意ください。
マイナンバー記載は「義務」となっていながらも、重要な個人情報と認識されているため、マイナンバーの提出を拒否されることが多いのが実情です。この点、国税庁の見解では、マイナンバーの記載はあくまでも「義務」とする一方で、実務上起こり得る様々な問題を勘案し、未記入での提出でも構わないとしています。したがって、マイナンバーを提出してもらえない場合、空欄で提出しても現状違反にはなりませんが、国税庁からは以下のような要望が出ています。
・マイナンバーの記載は法定義務であることを支払先に伝え、継続的な収集活動を行う
・入手できなかった場合は、その経緯を記録する。
つまり、継続的な収集活動を行って収集する努力をしたのにも関わらず、入手できなかったら未記載でも仕方がない、というのが今の取扱いになっています。もちろん、マイナンバー記載のない法定調書を提出した場合、その理由を国税庁から求められることがあるので、「いつ誰がどんな方法でどうだった」のか、継続的な収集活動とその経緯を必ず記録して残しておきましょう。