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所得税2020.12.16

クラウドファンディングの税務処理【個人編】

クラウドファンディングの税務処理【個人編】
A部長
A部長

個人でクラウドファンディングに出資した場合、所得税が安くなる場合があると聞いたのですが本当でしょうか。また、私もクラウドファンディングを利用して個人事業に挑戦しようと考えているのですが、税務上の注意点等を教えてください。 

回答

個人でクラウドファンディングに出資した場合、「寄付型」は寄附金控除「購入型」は必要経費に算入することにより所得税額を抑えられる可能性があります。ただし、「投資型」に出資した場合は、その分配金等のリターン(見返り)に対して所得税が課税される可能性がありますのでご注意ください。 

クラウドファンディングは、資金調達の目的や資金提供者へのリターン(見返り)の形態により概ね「購入型」「寄付型」「投資型」の3種類に区分されます。そしてこの種類ごとに資金調達側と資金提供側、またそれが個人か法人かで税務上の取扱いが異なるので注意が必要です。今回はクラウドファディングに係る個人の税務処理について解説します

クラウドファンディングの概要(←法人編と同内容です) 

クラウドファンディングは、資金を調達しプロジェクトを実行する「資金調達者」、資金を提供しプロジェクトを支援する「資金提供者」、インターネット上でサイトを運営し、両者をつなぐ役割を担う仲介としての「プラットフォーム事業者」の三者によって成り立っています。 

 そしてクラウドファンディングは、この「資金提供者」へのリターンの形態により大きく「購入型」「寄付型」「投資型」の3種類に区分され、さらに「投資型」は「融資型」「株式型」「ファンド型」に概ね区分されます。それぞれの概要が以下の通りです。 

①購入型…商品やサービス等のリターンがある 

購入型は、資金提供者が商品開発などのプロジェクトに必要な資金を提供し、それが実現した際にリターンとして完成した商品やサービス等受け取という仕組みです。認知度が高く最も利用されている形態がこの購入型です。なお、購入型のリスクとして、プロジェクトアイディアの流用・盗用、期待したリターンが提供されない等が挙げられます。 

②寄付型…金銭的リターンなし 

 寄付型は、その名の通り「寄付」という形でプロジェクトを支援する仕組みです。金銭的なリターンはもちろん、基本的には商品やサービス等のリターン発生しないのが他の形態との大きな違いです。資金調達者はNPO法人等の寄付が集まったらリターンとしてお礼のメッセージや事業の進捗状況の報告等を行うものが一般的です。そもそも寄付なので資金提供者(寄付者)のリスクは無いと言えますが、期待していた活動がされないというリスクがあります。 

③投資型…金銭的リターンあり 

・融資型(貸付型、ソーシャルレンディング) 

他の資金提供者(資産家)と資金を出し合い、大口化して資金調達者に融資する仕組みです。資金提供者へのリターンは元本と利息です。資金調達者(融資先)の倒産等により返済できなくなる可能性があり貸し倒れとなるリスクがあります。 

・株式型(株式投資型) 

 株式型は、資金調達者が株式(特に非上場株式)を発行し、クラウドファンディングを利用し多くの人から少額ずつ資金を集める仕組みです。資金提供者へのリターンは株式の取得です。非上場株式の場合、基本的にはIPOやM&Aといった出口がない限り自由に売却ができないためハイリスク・ハイリターンの投資と言えます。なお、投資者保護の観点から、資金調達者側は年間に発行総額1億円未満、資金提供者(投資家)側には1社に対する年間投資額が50万円までといった金額制限のルールがあります。 

・ファンド型(事業投資型、ファンド投資型) 

 ファンド型は、プロジェクトに対するファンド(基金)持分を購入させる方法で資金を集める仕組みです。資金提供者へのリターンは投資家特典となる商品やサービスの提供、資金調達によって実現した利益の分配金です。なお、ファンド型のリスクは、事業の不振やビジネス環境の変化等による元本割れ、購入型と同様にプロジェクトアイディアの流用・盗用等が挙げられます。 

購入型の処理【個人】 

・資金調達者側(事業所得又は雑所得) 

 購入型は、税務上売買取引と同様の取扱いとなり、調達した資金は「事業所得」又は「雑所得」として所得税の申告が必要となります。 

集まった資金は一旦「前受金(負債)」として処理し、プロジェクトが完了し完成した商品やサービスを資金提供者へ渡した時点(年)に「売上(収入金額)」に振り替えます。その売上(収入金額=調達資金から、プロジェクトの実施に要した原価やプラットフォーム事業者に支払う手数料等の必要経費差し引いた利益(課税所得)が所得税の課税対象となりますまた、消費税についても、通常の売買取引として、原則、消費税課税売上となります。 

なお、プロジェクトが失敗して調達した資金を返金する場合は、前受金を取消し収入が無かったことにします。また、返金しない場合やリターンの価値が著しく低い場合は、実質的に「寄付型」とみなされ贈与税や一時所得が発生する可能性がありますのでご注意ください。 

[参考] No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)(国税庁HP) 

[参考] No.1500 雑所得(国税庁HP) 

・資金提供者側(確定申告不要又は必要経費) 

 こちらも税務上は売買取引に準じた処理となり、純粋に商品やサービスを購入しただけなので、基本的には何の手続も必要ありません。もし支援したプロジェクトがご自身の個人事業に必要なものだった場合は、その個人事業の必要経費として計上可能です。資金提供時は「前渡金」、リターンが提供された時点で「仕入」等の原価又は費用(必要経費)として処理します。消費税についても原則、課税仕入となります。 

寄付型の処理【個人】 

・資金調達者側(贈与税又は一時所得) 

 個人が寄付型で資金提供を受けた場合は、その資金提供者が個人か法人かによって取扱いが異なります。 

個人からの資金提供を受けた場合はその時点で「贈与税」の対象となり、年間の資金提供額が基礎控除額110万円を超える場合に贈与税申告が必要で、最大55%の贈与税が課税されます。 

法人から資金提供を受けた場合はその時点「所得税(一時所得)」の対象となり、年間の資金提供額がその「収入を得るために支出した金額(プラットフォーム事業者に支払う手数料等)」と特別控除額50万円の合計額を超える場合に一時所得として所得税の申告が必要となります。 

[参考] No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁HP) 

[参考] No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁HP) 

[参考] No.1490 一時所得(国税庁HP) 

・資金提供者側(寄附金控除) 

 個人が寄付型で資金提供した場合は、その資金調達者(寄付先)NPO法人等の指定された団体の場合には得税の「寄附金控除を適用して確定申告することで所得税を還付できる可能性があります。寄付先が個人である場合はこの取扱いはありません。 

この「寄附金控除」の対象となるクラウドファンディングかは、プロジェクトにその旨の記載がありますので、節税を考えて出資する場合はご注意ください。 

 また、「寄附金控除」の適用を受けるためには、その「受領証」等の寄附証明書類の添付が必要となりますので、その発行についても事前の確認が必要です。 

[参考]寄附金を支出したとき(国税庁HP) 

投資型の処理【個人】

融資型 

・資金調達者側(事業所得又は雑所得) 

 資金調達者が資金を授受した時点で、通常の事業資金の借入と同様の処理となります。授受した時点では課税関係はないですが、もちろんその資金を運用して得た利益は事業所得又は雑所得として所得税の課税対象となります。リターンの際の金利としての「支払利息」や「分配金」は必要経費として計上できます。消費税についても通常の「借入金」の処理と同様に、調達時・返済時は不課税、利息は非課税の取扱いとなります。 

・資金提供者側(雑所得) 

資金の提供時点では課税関係はないですが、リターンとして「分配金」等が支払われた際に「所得税(雑所得)」の対象となります。給与所得と退職所得以外の所得が合計20万円以上ある場合は確定申告しなければならないのでご注意ください。 

 なお、「分配金」等は所得税の源泉徴収税額(20.42%)が差し引かれて支払われる場合があります。その場合は、実際の入金額ではなく、入金額に源泉所得税を加算し金額が分配金の総収入金額となりますので、所得計算の際はご注意ください。 

[参考] No.1500 雑所得(国税庁HP) 

②ファンド型 

・資金調達者側(法人主体のため割愛) 

・資金提供者側(雑所得) 

 融資型と同様に「分配金」等が支払われた際に「所得税(雑所得)」の対象となります。注意点等も融資型と同様です。 

③株式型 

・資金調達者側(法人主体のため割愛) 

・資金提供者側(配当所得、譲渡所得) 

 出資した時点では課税関係はないですが、リターンとしてその法人の株式(主に非上場株式)を取得することになるため、配当金を受領した時点で「配当所得」、その株式を売買した時点で「譲渡所得」として所得税の対象となります。これも給与所得と退職所得以外の所得が合計で20万円以上ある場合は確定申告しなければならないのでご注意ください。 

 なお、非上場株式の配当の場合、所得税の源泉徴収税額(20.42%)がすでに差し引かれているため、以下の算式により計算した金額以下の場合には、所得税は申告不要を選択することができます。 

・(1銘柄の1回の配当ごとに)10万円×配当計算期間の月数/12 

ただし、所得税の申告不要を選択した場合、配当控除の適用はなく、別途住民税の申告が必要となります。住民税の申告方法は自治体によって異なるため、確定申告を行った方が手続きは簡単です。 

[参考] No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)(国税庁HP) 

[参考] No.1250 配当所得があるとき(配当控除)(国税庁HP) 

[参考] No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁HP) 

※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において行ってください。

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