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会計・税務2020.12.09

(税務相談)クラウドファンディングの税務【法人編】

(税務相談)クラウドファンディングの税務【法人編】
A部長
A部長

当社の取引先がクラウドファンディングを利用して新規事業の資金調達をしております。当社もクラウドファンディングを利用した資金調達や投資を検討したいのですが、税務上の注意点等を教えてください。 

回答

クラウドファンディングは、資金調達の目的や資金提供者へのリターン(見返り)の形態により概ね「購入型」「寄付」「投資型」の3種類に区分されます。そしてこの種類ごとに資金調達側と資金提供側、またそれが個人か法人かで税務上の取扱いが異なるので注意が必要です。今回はクラウドファディングに係る【法人】の税務処理について解説します。 

クラウドファンディングの概要 

 クラウドファンディングは、資金を調達しプロジェクトを実行する「資金調達者」、資金を提供しプロジェクトを支援する「資金提供者」、インターネット上でサイトを運営し、両者をつなぐ役割を担う仲介としての「プラットフォーム事業者」の三者によって成り立っています。 

 そしてクラウドファンディングは、この「資金提供者」へのリターンの形態により大きく「購入型」「寄付型」「投資型」の3種類に区分され、さらに「投資型」は「融資型」「株式型」「ファンド型」に概ね区分されます。それぞれの概要が以下の通りです。 

①購入型…商品やサービス等のリターンがある 

購入型は、資金提供者が商品開発などのプロジェクトに必要な資金を提供し、それが実現した際にリターンとして完成した商品やサービス等受け取という仕組みです。認知度が高く最も利用されている形態がこの購入型です。なお、購入型のリスクとして、プロジェクトアイディアの流用・盗用、期待したリターンが提供されない等が挙げられます。 

②寄付型…金銭的リターンなし 

 寄付型は、その名の通り「寄付」という形でプロジェクトを支援する仕組みです。金銭的なリターンはもちろん、基本的には商品やサービス等のリターン発生しないのが他の形態との大きな違いです。資金調達者はNPO法人等の寄付が集まったらリターンとしてお礼のメッセージや事業の進捗状況の報告等を行うものが一般的です。そもそも寄付なので資金提供者(寄付者)のリスクは無いと言えますが、期待していた活動がされないというリスクがあります。 

③投資型…金銭的リターンあり 

・融資型(貸付型、ソーシャルレンディング) 

他の資金提供者(資産家)と資金を出し合い、大口化して資金調達者に融資する仕組みです。資金提供者へのリターンは元本と利息です。資金調達者(融資先)の倒産等により返済できなくなる可能性があり貸し倒れとなるリスクがあります。 

・株式型(株式投資型) 

 株式型は、資金調達者が株式(特に非上場株式)を発行し、クラウドファンディングを利用し多くの人から少額ずつ資金を集める仕組みです。資金提供者へのリターンは株式の取得です。非上場株式の場合、基本的にはIPOやM&Aといった出口がない限り自由に売却ができないためハイリスク・ハイリターンの投資と言えます。なお、投資者保護の観点から、資金調達者側は年間に発行総額1億円未満、資金提供者(投資家)側には1社に対する年間投資額が50万円までといった金額制限のルールがあります。 

・ファンド型(事業投資型、ファンド投資型) 

 ファンド型は、プロジェクトに対するファンド(基金)持分を購入させる方法で資金を集める仕組みです。資金提供者へのリターンは投資家特典となる商品やサービスの提供、資金調達によって実現した利益の分配金です。なお、ファンド型のリスクは、事業の不振やビジネス環境の変化等による元本割れ、購入型と同様にプロジェクトアイディアの流用・盗用等が挙げられます。 

購入型の処理【法人】

・資金調達者側(売上処理) 

 購入型は、税務上、売買取引と同様の取扱いとなります。そのため、まずは集まった資金は全て「前受金」として処理し、プロジェクトが完了し完成した商品やサービスを資金提供者へ渡した時点で「売上」として処理します。その売上(集まった資金)から、プロジェクトの実施に要した原価やプラットフォーム事業者に支払う手数料等の費用を控除した利益(課税所得)が法人税の課税対象となりますまた、消費税についても、売上(集まった資金)は通常の売買取引として、原則、消費税課税売上となります。 

なお、プロジェクトが失敗して調達した資金を返金する場合は、前受金の取消し処理、返金しない場合は受贈益(消費税非課税)として処理されます。 

・資金提供者側(仕入処理) 

 こちらも、税務上は売買取引に準じた処理となるため、資金提供時は「前渡金」、リターンが提供された時点で「仕入」等の原価又は費用(損金)として処理します。消費税についても原則、課税仕入となります。 

 ただし、出資した金額に対してリターンの価値が著しく低い場合プロジェクトの失敗により出資金が返金されない場合、また、その出資が提供者側の事業と関連性が薄い場合、法人税法上の「寄附金」とみなされる可能性があります。 

寄付型の処理【法人】

・資金調達者側(受贈益処理) 

 法人が寄付型の資金提供を受けた場合は、その資金提供を受けた時点で「受贈益」として収益(益金)計上し法人税の課税対象となります。提供された資金はプロジェクト実行のために必要な資金として、その支出に充てられた際に費用(損金)計上します。また、寄付型はリターンがなく、対価を得て行われる取引ではないため、「受贈益」に対する消費税は非課税となります。 

・資金提供者側(寄附金処理) 

 法人が寄付型で資金提供した場合は、法人税法上の寄附金として、一定の限度額まで損金算入可能です。資金調達者(寄付先)が個人の場合は「一般の寄附金」、法人の場合は「一般の寄附金」のほか、その法人格によって「指定寄附金」や「特定公益法人に対する寄附」等に該当する可能性があり、損金算入限度額の計算が異なるためご注意ください(詳細は下記国税庁HP参照)。 

また、受贈益と同様に「寄附金」に対する消費税は非課税となります。 

[参考]寄附金を支出したとき(国税庁HP) 

投資型の処理【法人】

①融資型 

・資金調達者側(借入金、支払利息) 

 資金調達者が資金を授受した時点で、通常の「借入金」と同様の処理となります。授受した時点では課税関係はないですが、もちろんその資金を運用して得た利益は法人税の課税対象となり、リターンの際は借入金の返済処理と金利の支払いとして「支払利息」が損金算入されます。消費税についても通常の「借入金」の処理と同様に、調達時・返済時は不課税、利息は非課税の取扱いとなります。 

・資金提供者側(貸付金、受取利息) 

こちらも資金提供した時点で、通常の「貸付金」と同様の処理となります。提供時点では課税関係はないですが、リターンの際に貸付金の返済処理と金利の受取りとして「受取利息」が益金算入されます。消費税についても通常の「貸付金」の処理と同様に、提供時・返済時は不課税、利息は非課税の取扱いとなります。 

なお、リターンとして利息の支払いがない(無利息)の場合や、著しく低い利率で利息の支払いを受けた場合は、資金調達者(借り手)に経済的利益を供与したことになるため、適正利率との差額部分が法人税法上の「寄附金」とみなされるリスクがあります。 

②株式型とファンド型 

・資金調達者側(資本金) 

 資金調達者が資金を授受した時点で、通常の新株発行に関わる会計処理を適用し、「資本金」等の純資産科目で処理します。そのため、授受した時点での課税関係はないですが、もちろんその資金を運用して得た利益は法人税の課税対象となり、配当金や分配金を支払う際は源泉所得税を徴収しなければない可能性があります。また、消費税は資本等取引として不課税となります。 

・資金提供者側(投資有価証券) 

 出資した時点で、通常の新株発行に関わる会計処理を適用し、「投資有価証券」等の投資科目で処理します。そのため、出資した時点での課税関係はないですが、配当金を受け取った場合に法人税法上の「受取配当等」として一部が益金不算入となる可能性があります。また、消費税は資本等取引として不課税となります。 

※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において行ってください。

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