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印紙税2020.12.02

印紙税の節約術まとめ(契約内容の検討)

印紙税の節約術まとめ(契約内容の検討)

目次

本日は、印紙税法上のルールを確認したうえで、実際に契約内容を工夫することにより印紙税を節約する方法をご紹介します。

※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。

文書の課否判定と所属の決定 

本題に入る前に、まずは契約書の内容が印紙税とどう関係してくるのか解説しておきたいので簡単に確認していきます。

印紙税の納付手続きは、「文書の課否判定→文書の所属の決定→税額確定→印紙の添付割印」という流れで進みますが、(1)文書の課否判定と(2)文書の所属の決定のステップで「文書の内容」を検討することが印紙税を節税する上で、特に重要なポイントとなります。

(1)文書の課否判定 

よく「覚書、確認書、申込書は契約書という名称ではないから印紙税はかからない」「契約書という名称だからとりあえず200円の収入印紙を貼っておこう」というように、文書の名称だけで課否判定されがちです。しかし、実際は文書の名称や形式的な文言にとらわれず、記載されている文言の実質的な意義や内容を汲み取って、それが課税物件表にある20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)になるか否かで判定します。つまり、印紙税は「文書の内容」で課否判定を行うため、内容を工夫することで節約できる可能性があるということです。 

【非課税文書の要件】 

①契約金額が少額なものなど(課税物件表の非課税物件欄) 

②国、地方公共団体又はその他の非課税法人(印紙税法別表第二)が作成するもの 

③日銀や独立行政法人など特定の者の作成する特定の文書(印紙税法別表第三) 

④国民健康保険法や厚生年金法などの特別の法律により非課税とされる文書 

[参考]課税物件表(印紙税額一覧表)(国税庁HP)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/tebiki/pdf/08.pdf 

この文書の内容判断は、その文書の全体的な評価によって決められるのではなく、記載されている個々の事項(内容)のすべてについて検討し、その中に課税事項が一つでも含まれていれば課税文書となります。このとき、課税事項が記載されているかの判断は、原則として、その文書に記載されている事項のみに基づいて判断することとなります。例えば、「金100万円を受領しました」と記載された文書があるときに、実際は当事者間のやり取りから貸付けの意思で授受されたものとしても、その文書に記載されている事項が金銭を受領したということのみであれば、「消費貸借に関する契約書」(1号文書)ではなく、「金銭の受取書」(17号文書)として扱われることになります。 

なお、他の文書を引用している文書については、その引用されている他の文書の内容がその文書に記載されているものとして判断します。 

また、実質的な意義の判断は、その文書に記載されている文言・符号について、それを用いることについての関係法令の規定、当事者間の了解、基本契約又は慣習などを加味し、総合的に行うものとされます例えば、売掛金の請求書に「済」や「了」と表示してあり、その「済」や「了」の表示が売掛金を領収したことの当事者間の了解事項であれば、その文書は、「金銭の受領書」(17号文書)に該当します。 

(2)文書の所属の決定 

課否判定と同時に行われることがほとんどですが、最終的に文書の内容がどの課税事項にあてはまるかというのが「所属の決定」というステップです。課否判定の際に「記載されている個々の事項(内容)のすべてについて検討」とあったように、文書に含まれている個々の内容すべてについて、1号から20号まで20種類ある課税事項をあてはめて判定を行います。 

文書の内容のうち課税事項が1つであれば、その該当事項の課税文書となるのですが、複数の課税事項が記載されている場合は、一定のルールに基づいてそのいずれか1つの号の文書として所属を決定することとなります。 

例えば、工事を請け負った事実とその手付金の受領事実が記載された契約書の場合、1つの文書の中に、「請負に関する契約書」(2号文書)と「金銭の受取書」(第17号文書)の2つの課税事項が併記されていることになりますが、一定のルールに基づくと最終的には「請負に関する契約書」(2号文書)として扱われることとなります。 

つまり、印紙税は課税事項となった「文書の内容」の組み合わせでどの課税文書とするか所属の決定を行うため、内容の組み合わせを工夫することで節約できる可能性があるということです。 

 なお、所属の決定の一定のルールは、通則法1から3までに詳細に規定されていますが、その概要は次のとおりです。 

課税事項に該当するものが一つの場合には、その文書は該当する課税事項の属する号の文書になります。 

②課税事項が二つ以上ある場合でも、その課税事項が同一の号の事項であるときは、その文書は該当する課税事項の属する号の文書になります。 

③課税事項が二つ以上あって、その課税事項がそれぞれ異なった号の課税事項である場合には、通則法3の規定に従って選択した一つの号に属する文書になります。なお、通則法3の規定は原則として、以下の基本的な考え方に基づいて規定されています。 

・該当する号のうち税率の最も高い文書に所属させる。 

・税率が同じ場合は先に掲げられている号の文書に所属させる。 

・証書と通帳の双方に該当する場合には通帳の号の文書に所属させる。 

[参照]2以上の号に該当する文書の所属の決定(国税庁HP) 

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/01/01.htm

(3)契約書の意義 

続いて参考ですが、今回は「文書の内容」ひいては「契約書の内容」について検討していくので、そもそもの「契約書」について確認します。 

印紙税法では20種類の文書のうち以下の課税文書に該当するためには、その文書が「契約書」に該当することが必要になります。 

・不動産等の譲渡に関する契約書(1号文書) 

・請負に関する契約書(2号文書) 

・合併契約書等(5号文書) 

・継続的取引の基本となる契約書(7号文書) 

・信託行為に関する契約書(12号文書) 

・債務の保証に関する契約書(13号文書) 

・金銭または有価証券の寄託に関する契約書(14号文書) 

・債権譲渡または債務引受に関する契約書(15号文書) 

印紙税法における契約書とは、当事者間で契約の成立、更改または内容の変更もしくは補充の事実を証明する目的で作成される文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書や当事者の全部または一部の署名を欠く文書であっても、当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものも含めるとされます。 

したがって、契約書に該当するかどうかは文書の表題(名称)から判断するのではなく、当事者双方の署名の有無も関係なく当事者間の合意が証明されるものであればどんな文書でも契約書に該当することとなります。 

契約内容をまとめる 

やっと本題です。印紙税は、所属の決定の項目で紹介したとおり、「複数の課税事項が記載されている場合は、一定のルールに基づいてそのいずれか1つの号の文書として所属を決定」します。つまり、1つの文書ごとに1つの課税文書として課税されます。 

したがって、課税文書となりそうな内容の契約等が2以上ある場合は、先述の所属の決定のルールのもと1つの文書にまとめてしまった方が印紙税の節約になるケースがあります。例えば、次のような場合には節約に繋がります。 

①2つの契約をまとめた場合 

 例)ソフトウェアの開発受注契約800万円を締結し、同時にその資金として400万円を借り入れた 

 ・開発受注800万円 印紙税1万円(2号文書) 

 ・借入契約400万円 印紙税2千円(1号文書) 

 ⇒まとめた場合は2号文書として、開発受注2,000万円に係る印紙税1万円のみ 

②領収書と契約をまとめた場合 

例)工事の請負契約2,000万円を締結し、同時に着手金1,000万円を受領した 

・請負工事2,000万円 印紙税2万円(2号文書) 

・領収書1,000万円 印紙税2千円(17号文書) 

⇒まとめた場合は2号文書として、請負契約2,000万円に係る印紙税2万円のみ 

契約内容を工夫する

(1)継続的取引の基本となる契約書 (7号文書)

この「継続的取引の基本となる契約書」(7号文書)は、一律で4,000円の印紙税がかかるのですが、4つの節約ポイントがあります。 

まずは節約のポイント①となるのは、契約期間についてです。この「継続的取引の基本となる契約書」とは、商品売買基本契約書や下請基本契約書など特定の相手方との間で継続的に生じる取引の契約書のことで、契約期間がない場合は7号文書となりますが、契約期間が3か月以内で更新の定めのないものは7号文書から除かれますつまり、契約期間を3か月以内に抑え、更新の定めを置かなければ7号文書に該当しないということです。 

例えば、必要な都度に1回100万円の請負契約を個別で締結した場合2号文書として1通あたり200円の収入印紙で済みます、これを基本契約として契約期間なしで契約締結すると7号文書として4,000円(=請負の場合の20回分)の収入印紙が必要となります。この方法は、定期的に契約内容を更新する可能性があるものには特に有用です。 

 次にこの7号文書は、特に運送に関する契約書(1号文書)や請負に関する契約書(2号文書)が併記・混合しているものが多く、記載金額があれば1号又は2号文書、記載金額がなければ7号文書として扱うこととなり、この所属の決定方法が節約のポイント②になります。 

 例えば、保守契約を結んだ際に、契約書に「月額5万円」と1か月あたりの保守料のみを記載した場合は、記載金額なしとして7号文書に該当し4,000円の収入印紙が必要となります。ところが、この契約書に「契約期間1年」と書き加えるだけで、2号文書に該当し、記載金額60万円(5万円×12か月)として収入印紙は200円で済むことになります。 

 続いて、この7号文書に該当するものとして、5種類の文書が定められているのですが、特に該当事例が多いのは、印紙税法施行令26条1号に定められた以下の要件を満たす契約です。つまり以下の要件を満たさなければ、7号文書に該当しない可能性が高いです。 

a.営業者間で締結される契約であること 

b.基となる契約が、売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負のいずれかに該当すること 

c.上記の売買などの契約に関して2以上の取引を継続して行うことが予定されていること 

d.2以上の取引に適用される取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格の1以上を定めていること 

特にこの要件で考えられる節約というか注意したいポイント③契約内容の種類です。bに限定列挙された「売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負」と契約内容が合致しなければ、7号文書の対象から外れることです基本契約は4,000円というイメージが強く、限定列挙されていることを知らずに4,000円の印紙を添付してしまうケースが多いのでご注意頂ければと思います。 

 最後にこの要件で節約できるポイント④取引回数です。cの「2以上の取引を継続して行う」というのは、「この契約に基づいて複数回の取引を予定しているか」ということで、単発の個別契約であれば、そもそも7号文書から外れることになります。ポイント①で紹介したものと同じように、基本契約ではなくあえて単発の個別契約を繰り返し締結した方が印紙税の節約になるケースも多いので、基本契約の前にどれくらい取引回数を予定しているか検討することも印紙税の節約に繋がるかと思います。 

(2)極度額貸付と限度額貸付 

 一般に金銭の貸し借りを行うときは、金銭消費貸借契約書を締結し、1号文書として印紙税が課税されます。例えば、1億円を貸し付けて、同額の1億円の貸付契約書を結んだ場合、一定額の限度額まで貸し付けること約する契約(限度額貸付契約)として、その限度額が記載金額となり、1号文書として6万円が必要となります。 

 一方、最初に貸し付ける金額の枠を定め、その範囲内であれば何度も貸し借りできる「極度額付き」の金銭消費貸借契約(極度額貸付契約)を締結すれば、記載金額はなしとして印紙税の負担は200円で済みます。 

 特に頻繁に貸し借りのある関係会社間等では、印紙税だけでかなりの負担となりますので、かなり有用な方法かと思います。 

 ただし、注意点として、極度額貸付でもその範囲内で貸し借りする際に、それを証明する文書(書面)を作成してしまうと、それは限度額貸付(1号文書)又は金銭の受取書(17号文書)としてその都度課税されてしまうリスクがあります。そのため、以後に借入申込書などのやりとりをする場合は、メール等のデータのみで行うことにより、電子文書として印紙税を不課税にできます。 

 

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