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過年度遡及処理の会計及び税務

目次
本日は、中小企業ではあまり見かけない処理ですが、上場準備会社のご紹介を頂いた際には、かなりの高い確率で行う処理をご紹介したいと思います。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
過年度遡及処理とは
「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」という、とても長いタイトルが正式名称で、通称「過年度遡及処理」といいます。
※2009年にコンバージェンスの一環として、同会計基準は制定され、その後2020年において、重要な会計方針の注記に関する定めを企業会計原則注解(注1-2)から引き継ぐ形でボリュームアップしています(特に実務の何が変わるという改正ではなく、ルールの載っている箇所が変わっただけという理解でいいと思います)。
この会計基準を簡単に説明すると、「会計方針の変更・訂正をした際には、当期の損益に反映させるのではなく、期首以前の貸借対照表に直接反映させる処理」となります。
会計上の取扱い
用語 | 取扱い | 例 |
会計方針の変更 | 過年度遡及処理 | ・引当金の計上方法の変更 ・棚卸資産の評価方法の変更 etc |
表示方法の変更 | 過年度遡及処理 | ・独立掲記 ・その他に含めて開示 |
会計上の見積もりの変更 | 過年度遡及処理しない | ・耐用年数の変更 ・減価償却方法の変更 |
過去の誤謬の訂正 | 過年度遡及処理(修正再表示) | ・過年度の売上計上誤り ・過年度の減損計上漏れ |
<ポイント>過年度遡及処理が「過去の誤謬」なのか、「ルールに沿った処理の変更」なのかを区別することが非常に重要です。
なお会計基準の結論の背景において、具体的な数値基準は示されてはいないが量的重要性、および質的重要性を考慮して遡及処理を行うことが考えられると記載されている。
税務上の取扱い
課税所得に影響があるか否かにより税務上の対応は異なります。
<ケース1>課税所得に影響のないケース
前期に本来であれば減損損失500を計上すべきであったが、検討が不足しており計上していなかったというケースを見ていきます(前期末:繰越利益剰余金:1,500円)。
区分 | 期首現在 利益積立金額 | 減少 | 増加 | 差引翌期首現在 利益積立金額 |
土地(過年度遡及) | 500 | |||
繰越損益金 | 1.000 | |||
差引合計額 | 1,500 |
税務上は、減損損失を損金としては扱えないため、仮に前期に適切に処理をしていたとしても、税務上の課税所得に変動はありません。そのため会計上、遡及修正された土地の減額分を調整するために前期繰越損益金1,500のうち500を土地(過年度遡及)に振替える必要があります。
<ケース2>課税所得に影響のあるケース
前期に売上計上漏れが500あることが発覚したケースを見ていきます(前期末:繰越利益剰余金:1,000円)。
区分 | 期首現在 利益積立金額 | 減少 | 増加 | 差引翌期首現在 利益積立金額 |
売掛金(修正申告) | 500 | 500 | ||
繰越損益金 | 1,000 | 1,000 | ||
差引合計額 | 1,500 | 1,500 |
この場合には、前期の税金計算が誤っていたことになりますので、前期に修正申告が必要となりますのす。従いまして、別表五(一)は上記のように修正が必要となります。
さて次に、期首時点の別表五(一)を見ていきます。
区分 | 期首現在 利益積立金額 | 減少 | 増加 | 差引翌期首現在 利益積立金額 |
繰越損益金 | 1.500 | |||
差引合計額 | 1,500 |
会計上、前期の誤謬を修正再表示することにより、当期首に売掛金と利益剰余金をそれぞれ500増加する処理が行われ、その時点で税務との差異は解消されます。
したがって、前期の別表五(一)の売掛金の期末残高500は当期首の別表五(一)の期首金額には転記せず、修正差表示後の繰越損益金1,500を転記することになります。