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市場価格のある有価証券の減損 会計・税務上の取扱い

目次
本日は上場株式のように「市場価格の”ある”有価証券の減損処理について、会計・税務上の取扱い」を解説していきます。次回は、続いて「市場価格の”ない”有価証券の減損処理の会計・税務上の取扱い」も解説しておりますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
会計上の取扱いについて
時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない(金融商品会計基準第20項)。
【ポイント】
「著しく下落した」、「回復する見込があると認められる場合」の具体的なケースの理解が大事となります。
(会計)著しく下落したときとは?
著しく下落した場合とは以下のようなケースが該当します(金融商品会計に関する実務指針91項)。
・有価証券の時価が取得原価に比べて50%以上下落
(注意点)
50%以上下落している場合には合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められません。
・上記以外の場合でも、状況に応じ個々の企業において合理的な基準を設ける
(注意点)
下落率が30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しません。
(会計)回復する見込があると認められる場合とは?
「回復する見込みがある」とは、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合をいいます。(金融商品会計に関する実務指針91項)。
(注意点)
・1年以内に回復しなくてはいけない水準は、下落率が50%未満ではなく、取得原価にほぼ近い水準までです。
・合理的な根拠は、個別銘柄ごとに、株式の取得時点、期末日後における市場価格の推移及び市況環境の動向等を総合的に勘案して検討することが必要です。
・以下のような場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められません。
・株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合
・株式の発行会社が債務超過の状態にある場合
・2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合
税務上の取扱いについて
税務上は、以下の2要件をいずれも満たした場合に、評価損の計上が認められます(法基通9-1-7)。
・帳簿価額のおおむね50%相当額を下回る
・近い将来その価額の回復が見込まれない
(注意点)
・会計上は、50%以上下落しており、1年以内に取得原価にほぼ近い水準まで回復しない場合には、評価損を計上しますが、下記のように税務上はより厳しい要件となっております。
・通達上は、「回復可能性の判断は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況等も踏まえ、当該事業年度終了の時に行うのであるから留意する」との記載のみとなっておりますが、実務上は上記の会計上の実務指針で確認した通常は回復する見込みがあるとは認められない具体的な事例の3つのうち、いずれかのケースに該当する場合には税務上も回復可能性がないと取扱います。
なお、国税庁から平成21年に公表された上場有価証券の評価損に関するQ&Aでは、外部の専門家や、会計監査を受けている場合について上記取扱いよりも回復可能性の要件が緩くなっておりますので、合わせて確認して下さい。
(税務)上場有価証券の評価損に関するQ&A
通達以外に、リーマンショック時に国税庁から公表された「上場有価証券の評価損に関するQ&A」についても確認する必要があります。
◆ 株価が 50%相当額を下回る場合における株価の回復可能性の判断基準 ◆
上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の 50%相当額を下回る場合における評価損の損金算入に当たっては、株価の回復可能性についての検証を行う必要がありますが、回復可能性がないことについて法人が用いた合理的な判断基準が示される限りにおいては、その基準が尊重されることとなります。したがって、必ずしも株価が過去2年間にわたり帳簿価額の 50%程度以上下落した状態でなければ損金算入が認められないというものではありません。
発行法人に係る将来動向や株価の見通しについて、専門性を有する客観的な第三者の見解があれば、これを合理的な判断の根拠のひとつとすることも考えられます。
具体的には、専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報などを用いて、当該株価が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断は合理的な判断であると認められるものと考えられます。
◆ 監査法人のチェックを受けて継続的に使用される形式的な判断基準 ◆
監査法人による監査を受ける法人において、上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の 50%相当額を下回る場合の株価の回復可能性の判断の基準として一定の形式基準を策定し、税効果会計等の観点から自社の監査を担当する監査法人から、その合理性についてチェックを受けて、これを継続的に使用するのであれば、税務上その基準に基づく損金算入の判断は合理的なものと認められます。
参考条文
法令第68条 資産の評価損の計上ができる事実
法第33条第2項(資産の評価損の損金不算入等)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であつて、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。
二 有価証券 次に掲げる事実(法第61条の3第1項第1号(売買目的有価証券の評価益又は評価損の益金又は損金算入等)に規定する売買目的有価証券にあつては、ロ又はハに掲げる事実)
イ 第119条の13第1項第1号から第4号まで(売買目的有価証券の時価評価金額)に掲げる有価証券( 第119条の2第2項第2号(有価証券の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資に該当するものを除く。)の価額が著しく低下したこと。
第119条の13 売買目的有価証券の時価評価金額(一部抜粋)
法第61条の3第1項第1号(売買目的有価証券の評価益又は評価損の益金又は損金算入等)に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、事業年度終了の時において有する有価証券を銘柄の異なるごとに区別し、その銘柄を同じくする有価証券について、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額にその有価証券の数を乗じて計算した金額とする。
一 取引所売買有価証券・・・金融商品取引所において公表された当該事業年度終了の日におけるその取引所売買有価証券の最終の売買の価格
法基通9-1-7 市場有価証券等の著しい価額の低下の判定
令第68条第1項第2号イ《市場有価証券等の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする。
(注)1 本文の50%相当額を下回るかどうかの判定に当たっては、当該有価証券(令第119条の2第2項《有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法》に規定する「その他有価証券」に限る。)の当該事業年度終了の日以前1月間の市場価格の平均額によることも差し支えない。
2 本文の回復可能性の判断は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況等も踏まえ、当該事業年度終了の時に行うのであるから留意する。