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市場価格のない有価証券の減損 会計・税務上の取扱い

目次
昨日の「市場価格の”ある”有価証券の減損 会計・税務上の取扱い」に続きまして、本日は、「市場価格の”ない”有価証券の減損処理の会計・税務上の取扱い」も解説していきます。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
会計上の取扱いについて
発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない(金融商品会計基準第21項)。
【ポイント】
「財政状態の悪化」、「実質価額が著しく低下したとき」の具体的なケースの理解が大事となります。
(会計)財政状態の悪化? 実質価額が著しく低下?
財政状態の悪化とは、時価評価後の1株当たり純資産額が、取得時と比較して相当程度下回っている場合をいいます(金融商品会計に関する実務指針92項)。
【ポイント】
成長ステージにあり、いまだ設備投資段階にあるようなケースですと、株価は現在の財政状態ではなく、将来のキャッシュフローに基づいて評価されることもあるため、実質価額が著しく低下したという要件も満たす必要があります。
なお、この場合の実質価額が著しく低下したときとは、取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます。
(会計)回復可能性について
回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められます(金融商品会計に関する実務指針92項)。
子会社や関連会社等の株式のように、事業計画を入手して回復可能性を判定できること場合には、相当の減額をしなくてい良い可能性があります。しかしながら、その場合にもおおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行うものとします(金融商品会計に関する実務指針285項)。
税務上の取扱いについて
税務上は「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」、及び「その価額が著しく低下したこと」のいずれもケースも満たす必要があります(法令第68条第1項②二号ロ) 。
(税務)有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化とは?
以下のように「形式基準」と「実質基準」のどちらかを満たした場合をいいます(法基通9-1-9)。
「形式基準」
以下のいずれの事象が生じていること。
イ 特別清算開始の命令があったこと。
ロ 破産手続開始の決定があったこと。
ハ 再生手続開始の決定があったこと。
ニ 更生手続開始の決定があったこと。
「実質基準」
純資産価額が取得時の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと
(注意点)
会計上と同じく、成長ステージにあり、いまだ設備投資段階にあるようなケースですと、株価は現在の財政状態ではなく、将来のキャッシュフローに基づいて評価されることもあるため、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」に加えて下記「その価額が著しく低下したこと」の要件を満たす必要があります。
(税務)その価額が著しく低下したとは?
税務上は、以下の2要件をいずれも満たした場合に、評価損の計上が認められます(法基通9-1-11&9-1-7)。
・時価が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回る
・近い将来その価額の回復が見込まれない
(注意点)
・法基通9-1-11において、9-1-7の取り扱いを準用することとなっております。つまり、「市場価格の”ない”有価証券」の価額が低下しているかの判定にあたっては「市場価格の”ある”有価証券」の取り扱いを準用します。
・通達上は、「回復可能性の判断は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況等も踏まえ、当該事業年度終了の時に行うのであるから留意する」との記載のみとなっておりますが、実務上は会計上の実務指針で記載のある通常は回復する見込みがあるとは認められない以下のような事例に該当する場合には税務上も回復可能性がないと取扱います。
・株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合
・株式の発行会社が債務超過の状態にある場合
・2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合
参考条文
法令第68条 資産の評価損の計上ができる事実
法第33条第2項(資産の評価損の損金不算入等)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であつて、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。
二 有価証券 次に掲げる事実(法第61条の3第1項第1号(売買目的有価証券の評価益又は評価損の益金又は損金算入等)に規定する売買目的有価証券にあつては、ロ又はハに掲げる事実)
ロ イに規定する有価証券以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと。
法基通9-1-7 市場有価証券等の著しい価額の低下の判定
令第68条第1項第2号イ《市場有価証券等の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする。
(注)1 本文の50%相当額を下回るかどうかの判定に当たっては、当該有価証券(令第119条の2第2項《有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法》に規定する「その他有価証券」に限る。)の当該事業年度終了の日以前1月間の市場価格の平均額によることも差し支えない。
2 本文の回復可能性の判断は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況等も踏まえ、当該事業年度終了の時に行うのであるから留意する。
法基通9-1-9 市場有価証券等以外の有価証券の発行法人の資産状態の判定(一部抜粋)
令第68条第1項第2号ロ《市場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」には、次に掲げる事実がこれに該当する。
(1) 当該有価証券を取得して相当の期間を経過した後に当該発行法人について次に掲げる事実が生じたこと。
イ 特別清算開始の命令があったこと。
ロ 破産手続開始の決定があったこと。
ハ 再生手続開始の決定があったこと。
ニ 更生手続開始の決定があったこと。
(2) 当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと。
9-1-11 市場有価証券等以外の有価証券の著しい価額の低下の判定
9-1-7《市場有価証券等の著しい価額の低下の判定》は、令第68条第1項第2号ロ《市場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に掲げる有価証券の価額が著しく低下したことの判定について準用する。