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ストック・オプションの会計・税務

目次
本日は、上場会社や上場準備会社において、役員・従業員(取引先)へのインセンティブ付与を目的とした報酬制度をご紹介したいと思います。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
ストック・オプションとは??
「ストック・オプション」とは、企業が従業員等に、労働報酬の対価として、付与時に合意した価額(権利行使価額)で、一定の条件を達成した場合に株式を取得することができる権利のことを言います。※ストックオプション自体は無償(タダ)です。
一定の条件には、勤務条件(何年間在籍している場合)や業績条件(営業利益が〇〇億円を超えた場合)などがあります。他にも上場後、すぐにストック・オプションを行使して株式を取得し、退職されることを未然に防ぐために、上場後一定期間を経過するにごとに行使ができる等の条件を付すような設計も可能です。
従業員等にとっては、「権利行使価額<株価」の場合にだけ権利行使をすればよく、逆に「権利行使価額>株価」の場合には権利行使をしなければ良いだけの話ですので、従業員にとってはメリットしかない制度となります。また企業側にとっても、資金的な負担をせずに従業員のモチベーションを高めることができる報酬制度であり、優秀な人材の採用にも有効でありメリットがあります。
会計上の取扱い
ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上します(ストック・オプション等に関する会計基準4項)。
適用指針の設例でも付与時~権利確定日までの期間に応じて、ストック・オプションの公正価値を費用計上する内容となっておりますが、上場準備会社のような非上場会社の場合には、税制適格ストック・オプションを従業員に付与することが一般的であるため、ストック・オプションの価値はゼロとみなされ、費用計上は実務上されません。
税制ストック・オプションの要件である「権利行使価格≧付与時の株価」を簡単な例で説明します。
(例)現在の株価が@990円で、2年後に@1,000円でその株式を購入できる権利を従業員に付与した。
⇒敢えて2年後に高い金額で権利行使するよりも、現時点の株価で株式を購入する方が合理的のため、当該権利には価値がないことが分かります。
税務上の取扱い(従業員側)
【例題】税制適格と非適格で課税が起きるタイミングを簡単な例で確認します。
A.権利行使価額:1,000円
B.権利行使時の株価:2,000円
C.株式売却時の株価:3,000円
税制適格ストック・オプション
・株式売却時にA.権利行使価額とC.株式売却時の差額の2,000円が課税されます。
税制非適格ストック・オプション
・権利行使時にA.権利行使価額とB.権利行使時の株価の1,000円が課税されます。
・株式売却時にB.権利行使時の株価とC.株式売却時の差額の1,000円が課税されます。
【ポイント】
どちらも合計2,000円に対して課税されますが、その意味合いは大きく異なります。税制非適格ストック・オプションの場合には、権利行使時に課税されます。つまり、単にストック・オプションを行使したけで、株式は売却していないのでまだ売却代金は入っていませんが、税金を支払わなければなりません。企業は、従業員に安定株主として長く株式を保有してもらいたいはずが、税金を支払うために株式を売却せざるを得ない状況が発生するのです。そのため、通常は従業員には税制ストック・オプションを付与します。
では、税制非適格のストック・オプションはどのようなシチュエーションで利用されるかというと、上場会社で役員に対して1円ストックオプションを発行し、退職時に権利行使できるようなスキームで活用するケース等あります(詳細はまた別途説明できればと思います)。
税務上の取扱い(企業側)
企業側の処理は特に難しい論点はなく、下記のような取扱いとなります。
税制適格ストック・オプション
損金不算入 ※そもそも会計上、費用計上は一般的にされない(上記参照)
税制非適格ストック・オプション
従業員等が権利行使し、給与課税が発生する期に損金算入 ※税効果会計の対象