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インセンティブ報酬(譲渡制限付株式)税務上の取扱い

目次
譲渡制限付株式とは?
株式を譲渡するにあたって、会社法上で定められ手続に従い、会社の承認を得ることを必要とする株式の種類を言います。ひとことで言うと、「自由に譲渡ができない株式」です。
インセンティブ報酬をめぐる最近の動向
近年、上場企業においていわゆるインセンティブ報酬と呼ばれるような株価連動型、業績連動型の役員報酬制度の導入が広がっています。
『日本再興戦略』改訂2015において、企業が国際的に競争力を発揮していくためのコーポレート・ガバナンス強化(改革)の1つの施策として、中長期的に企業価値を向上させることを目的とした役員等に対する株式報酬や業績連動報酬の仕組みづくりを行っていくべきことが明記されたことで、以後、会社法、会計、税務の改正の契機となりました。
また直後の2015年7月には、経済産業省から前述の閣議決定を受けて『コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会』報告書「コーポレート・ガバナンス・システムの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」が公表され、新たな株式報酬を導入するための法的な論点が整理されました。
これに伴い、リストリクテッド・ストックと呼ばれる譲渡制限付株式の導入が始まるとともに、役員向けの株式交付信託の導入も拡大の一途を辿っています。
税務面からもH28年、H29年の税制改正もあり、役員等に対するインセンティブ報酬の導入が進んでいます。
株式報酬制度の効果
○株式報酬や業績連動報酬の導入が促進されることで、経営者に中長期的な企業価値向上のインセンティブを与え、我が国企業の「稼ぐ力」向上につなげます。
○特に、株式報酬については、経営陣に株主目線での経営を促したり、中長期の業績向上インセンティブを与えるといった利点があり、その導入拡大は海外を含めた機関投資家の要望に応えるものです。
リストリクテッド・ストックとSOの違い
法人が役員や従業員に対して,一定期間の譲渡制限が付された株式を報酬として付与するものである。ストックオプション(以下,SO)と同様に,中長期の業績向上に向けたインセンティブではあるが,SOは権利行使価額と株価次第で利益が得られないケースがある一方,RSは株価が下落しても配当等により一定の利益を得られるなどといった違いがあります。
平成28年度税制改正前
内国法人がその役員に対して支給する給与のうち、以下に掲げる給与のいずれかに該当するものの額については、原則として、損金の額に算入される。
① 定期同額給与(法人税法第34条第1項第1号)
1ヶ月以下の一定期間ごとに同額で支給するもの。
② 事前確定届出給与(同項第2号)
事前の届出に従い、所定の時期に確定額を支給するもの。
③ 利益連動給与(同項第3号)
利益に連動して支給する給与で、以下の要件等を満たすもの。
・算定指標: 当該事業年度の利益に関する指標を基礎としていること。
(現行、純粋な利益指標(営業利益、当期純利益)等とされ、ROE、ROA等は含まれないものと解されている。)
・算定方法: 確定額を限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する利益連動給与に係る算定方法と同様のものであること。
・対象会社: 同族会社に該当しない内国法人であり、かつ、有価証券報告書提出法人であること。
・プロセス : 報酬委員会の決定(指名委員会等設置会社)や監査役適正書面の提出(監査役会設置会社)等の手続きを経ていること。また、算定方法が有価証券報告書等により開示されていること。
平成28年度税制改正
◆特定譲渡制限付株式を(事前の届出不要な)事前確定届出給与として損金算入の対象へ
◆利益連動給与について、対象となる指標(ROE等)を追加及び明確化
<事前の届出不要”な事前確定届出給与に該当する特定譲渡制限付株式の要件等 >
以下の5つの要件を満たす必要があります。
譲渡制限付株式 ( 法法54①, 法令111の2②) | ①譲渡制限と譲渡制限期間が設けられており,②個人(役員)から役務提供を受ける内国法人やその親法人等が発行・交付する株式で,これら③法人がその株式を無償で取得することになる事由(没収条項等)が定められている株式 |
特定譲渡制限付株式 ( 法法54①) | 譲渡制限付株式のうち,④役務提供の対価として,個人(役員)に生じる債権と引換えに個人(役員)に交付されるもの等 |
“事前の届出不要”な事前確定届出給与に該当する特定譲渡制限付株式 ( 法法34①二, 法令69③) | ⑤将来の役務提供の対価に係るものとして,⑥役員の職務執行開始日から1か月以内の株主総会その他準ずるものの決議により,「所定の時期に確定額を支給する旨の定め(その決議から1か月以内に役員に生じる債権の額に相当する特定譲渡制限付株式を交付する旨の定めに限る)」に基づいて交付される特定譲渡制限付株式 |
平成29年度税制改正
◆株式交付信託やストックオプションなど各役員給与類型について、全体として整合的な税制となるよう見直し
◆特定譲渡制限付株式、ストックオプションに係わる課税の特例の対象を、非居住者役員や完全子会社以外の子会社の役員にも拡大
◆業績連動給与(利益連動給与)について、複数年度の利益に連動したものや、株価に連動したものも損金算入の対象へ
<平成29年度税制改正の主な影響>
◆利益連動給与が大幅拡充される一方で,いわゆるパフォーマンス・シェア型のRS(利益その他の指標を基礎として譲渡制限が解除される数が算定される譲渡制限付株式による給与)が,事前確定届出給与から除外された。
◆「特定新株予約権」 を含む新株予約権による給与との概念が創設され、 「特定新株予約権」の費用については、事前確定届出給与ないし一定の業績連動給与に該当しなければ、損金算入が認められないこととなった。
◆利益その他の指標を基礎として算定される退職給与は、業績連動給与の要件を満たした場合にのみ、損金算入が認められることとなった。
令和2年税制改正
以下の会社法の一部改正に伴い,払込みが不要なRSが法人税法の条文にも記載とされる。ただし、以前からRS付与のために解釈により交付が可能であったため、会社法が改正されたことによる影響は、特に実務上ない。
<会社法改正(令和元年12月4日成立)>
①株式報酬や新株予約権報酬などを付与する場合の株主総会決議事項の明確化
⇒会社法361条第1項第3号を改め、報酬等の範囲に発行会社の株式、新株予約権を含めるとした。
②上場会社においては、上記①の株式報酬に伴う金銭の払込み、新株予約権報酬の権利行使に際しての出資を不要とする(取締役(取締役であった者を含む)以外の者による株式引受け、新株予約権行使は不可)。
⇒会社法199条第1項第2号、4号に掲げる事項を定めることを要しないとした。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において行ってください。