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【速報】令和4年度税制改正を徹底解説!

目次
はじめに
令和3年12月10日に、令和4年度税制改正大綱が発表されました。
今年度の改正は、暮らしに直接関わる「住宅ローン減税」の改正や、オーナー企業に影響が大きい「大口株主等の要件見直し」の改正、法人の雇用に関わる「賃上げ税制」に関する改正、納税環境整備に関する「電子帳簿保存」の改正等、多岐に渡る改正案がありました。
今回の税制改正をキャッチアップし、既存の枠組みの見直しや、将来のキャッシュを最大化するための新たな戦略が必要になるでしょう。それでは改正前後を比較をしつつ、解説していきます。
※税制改正大綱のうち、主に新規に改正(拡充含む)があったものの中から筆者が影響の及ぶ範囲が大きいと考えたもののみを記載しています。
※税制改大綱は、来年3月下旬までに国会で可決・成立されてからの交付となるための素案であり、最終的な改正内容とは異なる可能性があります。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
個人所得課税
【住宅ローン減税】
✅税額控除額の改正
「所得要件」、「限度額」、「控除率」、「控除期間」に改正が予定されています。
現在の低金利時代では、実際に毎年支払う金利よりもローン「控除率」(1%)が高い、いわゆる逆ザヤ状態にあり、これを解消する意図があります。
また高所得者ほど減税効果の恩恵が大きく、これを是正するため「所得要件」、「限度額」も引き下げられる予定です。
一方で、「控除期間」については引き伸ばし(10年⇒13年)が行われる予定です。
項目 | 改正前 | 改正後 2022~23年 | 改正後 2024~25年 | |
---|---|---|---|---|
対象者の合計所得金額 | 3,000万円以下 | 2,000万円以下 | ||
控除対象借入限度額 |
| |||
認定住宅 | 新築 | 5,000万円 | 5,000万円 | 4,500万円 |
ZEH | ー | 4,500万円 | 3,500万円 | |
省エネ基準適合 | ー | 4,000万円 | 3,000万円 | |
その他 | 4,000万円 | 3,000万円 | 2,000万円 | |
認定住宅等 | 中古 | 3,000万円 | 3,000万円 | |
その他 | 2,000万円 | 2,000万円 | ||
年末ローン残高の控除率 | 1% | 0.7% | ||
控除期間 | 10年 | 新築:13年(※) 中古:10年 |
※控除期間:新築は「その他」の場合のみ10年
※合計所得金額が1,000万円以下の者で、一定の要件を満たす新築等は床面積が40㎡以上50㎡未満についても上記の適用あり
※築年数要件を廃止し、新耐震基準に適合していることを新たな要件として追加
なお、現在は消費税率10%特例、コロナ特例が制度上並行していますので、合わせて国税庁の下記HPをご参照ください。
✅個人住民税による調整
「住宅ローン控除額>所得税額」の場合、翌年度分の個人住民税において、「課税総所得金額等×5%(MAX9.75万円)」を控除できる改正が予定されています。
✅申告等書類の簡略化
手続き面の改正となります。現在、納税者が会社等へ残高証明書の提出をしていますが、これに代え納税者が記載した申請書を基に、銀行等が年末残高の情報等を記載した調書を税務署に提出することにより、納税者側の提出が不要となる改正が予定されています。
【改正時期】
✅税額控除額(住民税含む)の改正:令和4年1月1日~令和7年12月31日
✅申告等書類の簡略化:令和6年1月1日~(居住年令和5年1月1日~)
【上場株式の配当所得】
✅所得税と住民税の課税方式の同一化
これまで所得税で申告した上場株式の配当とは異なる課税方式を住民税で選択することができましたが、改正後は同一の課税方式が強制される予定です。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
個人住民税との課税方式 | 所得税と異なる課税方式選択可(※) | 所得税と同一の課税方式強制 |
(※)納税者の選択により所得税と異なる有利な課税方式(総合課税、申告分離課税、申告不要)を住民税で選択ができることができました。
✅大口株主等の要件見直し
これまで同族会社と合わせて発行済株式総数の3%以上を保有する場合であっても、個人で3%未満であれば「申告分離課税」や「申告不要」といった有利な税率(20.315%)で配当を受けることができましたが、個人と法人を合わせて3%以上を保有する場合には「総合課税」として取り扱われる予定です。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
大口株主等(※)の判定 | 個人 | 個人&個人保有の同族会社 |
(※)上場会社から受ける配当金の支払い基準日において、その上場会社の発行済株式総数等3%以上を保有する者をいいます。
なお、上場会社から受ける配当金の支払い基準日において、その上場会社の発行済株式総数等1%以上を保有する者の氏名等を税務署に報告する必要があります。
【改正時期】
✅所得税と住民税の課税方式同一化:令和6年分申告~
✅大口株主等の要件見直し:令和5年10月1日~
法人課税
【賃上げ税制(大企業)】
✅賃上げ税制の見直し
現在の「新規雇用者」に対する給与に対して一定率を控除できる制度から「継続雇用者」の一人当たり給与の増加が適用要件に改められるとともに、控除率も引き上げ、控除できる対象を中小企業と同様に「控除対象雇用者給与等支給増加額」とする改正が予定されています。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
適用要件 | ①雇用者給与等支給額が前期より増加 ②新規雇用者給与等支給額が前期比2%以上増加 | ①継続雇用者(※2)給与等支給額が前期比3%以上増加 ②取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届出(※3) |
控除対象金額 | 控除対象新規雇用者給与等支給額(※1) | 控除対象雇用者給与等支給増加額 |
控除率 | 15% | 15% 25%(※4) |
上乗せ措置 | 教育訓練費が前期比20%以上増加 | 教育訓練費が前期比20%以上増加 |
控除率(上乗せ後) | 20% | 30% |
控除限度額 | 法人税額の20% | 法人税額の20% |
(※1)適用年度において、国内新規雇用者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額をいいます。
(※2)前年度の期首から適用年度の期末までの全ての月分の給与等の支給を受けた従業員のうち、一定の者をいいます。
(※3)資本金の額等が10億円以上であり、かつ常時使用する従業員が1,000人以上である場合に②の要件が必要。
(※4)継続雇用者給与等支給額が前期比4%以上増加の場合には25%
✅賃上げ一定率未満等企業に対する投資減税制度の不適用
賃上げ税制の控除率を増加させる一方、以下の大企業については「研究開発税制」等を適用しない。
✔従業員数:常時使用する1,000人以上
✔資本金の額等:10億円以上
✔前期:黒字法人
✔賃上げ率:1%未満(令和4年度は0.5%未満)
【改正時期:令和4年4月1日~令和6年3月31日】
【賃上げ税制(中小企業)】
既存の制度を引き継ぎ、税額控除率が引き上げられる改正が予定されています。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
適用要件 | 雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加 | 雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加 |
控除対象金額 | 控除対象雇用者給与等支給増加額(※1) | 控除対象雇用者給与等支給増加額 |
控除率 | 15% | 15% 30%(※2) |
上乗せ措置 | ①雇用者給与等支給額が前期比2.5%以上増加 ②教育訓練費が前期比10%以上増加 (経営力向上計画要件も可) | 教育訓練費が前期比10%以上増加 |
控除率(上乗せ後) | 25% | 40% |
控除限度額 | 法人税額の20% | 法人税額の20% |
(※1)適用年度の「雇用者給与等支給額」から前事業年度の「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額をいいます。
(※2)雇用者給与等支給額が前期比2.5%以上増加の場合には30%
【改正時期:令和4年4月1日~令和6年3月31日】
【少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直し】
近年多数のドローンや建設用の足場等を購入し,リースとして貸出しリース料収入を得る一方、購入時に少額減価償却資産として一括損金処理する節税スキーム(課税の繰延べ)が増加していることを踏まえ,制度の対象となる資産から取得価額が10万円未満の減価償却資産、及び一括償却資産、少額減価償却資産で貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産を除く改正が予定されています。
【改正時期:令和4年4月1日~】※取得価額が10万円未満の減価償却資産、及び一括償却資産は明記なし
【オープンイノベーション促進税制の延長と拡充】
国内の事業会社またはその国内CVCが、スタートアップ企業とのオープンイノベーションに向け、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%が所得控除される制度が2年延長されるとともに更に利用しやすさが増した改正が予定されています。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
対象法人 | ・青色申告書を提出する法人で、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す、株式会社その他これに類する法人 ・対象法人が主体となるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)が出資する場合も対象 | |
出資を受けるスタートアップ企業の要件 | 設立10年未満の未上場スタートアップ 等 | 設立15年(※)未満の未上場スタートアップ 等 |
出資の要件 | ・純投資目的ではなく、5年以上の株式保有を予定する1件あたり1億円以上の大規模出資 ※中小企業の出資の場合は1件あたり1,000万円以上。海外スタートアップ企業への出資の場合には、一律1件あたり5億円以上。 ・オープンイノベーション要件を満たす出資 | ・純投資目的ではなく、3年以上の株式保有を予定する1件あたり1億円以上の大規模出資 ※左記同一 |
(※)売上高に占める研究開発費の割合が10%以上の赤字会社
【改正時期:令和4年4月1日~令和6年3月31日】
【大法人の法人事業税所得割の税率見直し】
法人事業税の所得割(外形標準適用法人)について、標準税税率について以下の改正が予定されています。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
400万円以下 | 0.4% | 1% |
400万円超~800万円以下 | 0.7% | |
800万円超 | 1% |
【改正時期:令和4年4月1日~】
【子会社配当の源泉徴収不要化】
以前から完全子法人株式等に係る配当は全額が益金不算入となるため、源泉徴収制度の趣旨に沿っていないという指摘が会計検査院からありましたが、今回の改正で下記の一定の内国法人から受ける配当に関しては源泉徴収を行わない予定となります。
①完全子法人株式等に該当する株式等に係る配当等
②3分の1超を保有する株式等に係る配当等
【改正時期:令和5年10月1日~】
消費税
【インボイス制度】
以下のように「適格請求書発行事業者の登録申請」について期中での登録が2024年度以降でもできる改正が予定されています。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
課税期間の途中での登録 | 令和5年10月1日の属する課税期間に限り可 | 令和5年10月1日~令和11年9月30日の属する課税期間で可 |
事業者免税点制度の制限 | ー | 登録開始日から2年を経過する日の属する課税期間は不可(令和5年10月1日の属する課税期間は除く) |
【改正時期:令和5年10月1日~】
【訪日外国人向けの消費税免税制度】
外国人留学生らの長期滞在者を消費税免税制度の対象から除く改正が予定されています。
これまで入国から半年間は免税による購入を認めていましたが、対象者かどうかの確認作業が煩雑な上に、留学生による免税品の転売とみられる行為が横行していたため、「外国人留学生らの長期滞在者」が対象から除外されます。
これにより、今後は「国内滞在が原則90日間以内となる訪日観光客などの短期滞在者、外交官、海外在住の日本人」のみが消費税免税点制度の対象となります。
【改正時期:令和5年4月1日~】
資産課税
【住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置】
平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、所定の金額について、贈与税が非課税となる制度が措置されていましたが、制度を延長する一方、非課税枠が縮小される予定です。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
省エネ等住宅 | 1,500万円 | 1,000万円 |
上記以外の住宅 | 1,000万円 | 500万円 |
※築年数要件を廃止し、新耐震基準に適合していることを新たな要件として追加
※受贈者の年齢要件を18歳以上(現行:20歳以上)に引き下げ
【改正時期:令和4年1月1日~】
【固定資産税負担軽減措置】
新型コロナウイルス渦に伴う経済対策として今年度に限り、地価が上昇しても固定資産税を据え置く軽減措置を取られていました。
住宅地については当初予定通り今年度中に終了する一方、商業地については地価上昇に伴う税額の上昇幅を通常(上限5%)の半分(上限2.5%)に抑えることで、負担軽減措置が続く予定です(加算額の上限、下限は別途定めあり)。
【改正時期:令和4年1月1日~令和4年12月31日】
納税環境整備
【電子帳簿保存法】
2022年1月から電子的に収受した請求書や領収書は、「電子での保存」が義務付けられる予定でしたが、事業者への周知や、電子データ保存の要件を満たすための事業者側の準備が十分ではなかったため、「やむを得ない事情があると認め」、かつ「税務調査等で出力書面の提出の求めに応じることができるようにしている場合」に「保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができる」改正が予定されています。
何が「やむを得ない事情に該当するか」は今後国税庁からの案内で明らかになるとか思われますが、大綱の注書きで「当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配慮し、引き続き保存義務者からの納税地等の税務署所長への手続を要せずその出力書面等による保存を可能とするよう、運用上、適切に配慮することとする。」とあるように、従来通り紙での出力をできる状態にしている(紙で保存をしている)のであれば、「やむを得ない事情」に該当し、一律に(もしくは規模に応じて)電子データの保存要件が満たされることになるかと思われます。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
電子データの保存方法(2022年1月~) | 電子 | 電子・紙 |
【改正時期:令和4年1月1日~令和5年12月31日】
【過少申告加算税・無申告加算税の加重措置の整備】
記帳水準の向上に資する観点から、記帳義務の適正な履行を担保するため、帳簿の不存在や記載不備について未然に抑止するための過少申告加算税・無申告加算税の加重措置が整備される改正が予定されています。
具体的には、国税庁等の職員から求められた一定の帳簿に関して、記載すべき事項が「著しく不適切である場合(※1)」には、通常課される過少申告加算税の額又は無申告加算税の額に当該申告漏れ等に係る税額の10%(「記載が不十分な場合(※2)」は5%)に相当する金額を加算した金額とする改正が予定されています。
(※1)当該帳簿に記載すべき売上金額等のうち2分の1以上が記載されていない場合をいう。
(※2)当該帳簿に記載すべき売上金額等のうち3分の1以上が記載されていない場合をいう。
【改正時期:令和6年1月1日~】
【証拠書類のない簿外経費への対応】
不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得(前々年の収入300万円超)を生ずべき業務を行う者で、仮想隠蔽行為に基づき申告、もしくは確定申告書を提出していなかった場合で、帳簿書類等から明らかにされない場合等は,必要経費の額に算入しないとする改正が予定されています。
【改正時期:令和5年1月1日~】
【財産債務調書制度の見直し】
✅提出義務者の見直し
現行の提出義務者に加えて,「総資産10億円以上」(所得基準なし)に該当する者も対象とする改正が予定されています。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
従来基準 | ①所得2,000万円超 ②総資産3億円以上または有価証券等が1億円以上 | 左記同様 |
新基準 | ー | 総資産10億円以上 (所得基準なし) |
✅提出期限と記載範囲の見直し
提出期限を翌年6月30日まで延長が予定されています(期限後でも調査通知前かつ更正予知前の申告は期限内提出とみなされます※国外財産調書も同様)。
✅記載事項の見直し
記載省略ができる「その他動産の区分に該当する家庭用動産」の取得価額の基準を300万円未満(現行100万円未満)に引き上げるほか、財産債務調書及び国外財産調書の記載事項について運用上の見直しが予定されています。
【改正時期:令和6年1月1日~】
国際課税・その他
【過大支払利子の見直し】
外国法人の法人税の課税対象とされるPE外で発生した国内源泉所得についても適用する。
【改正時期:不明】
【資本の払戻しに係るみなし配当の額の計算方法等の見直し】
最高裁判決を受けて、以下のように改正が予定されています。
・資本の払戻しにおける払戻等対応資本金額等は,減少した資本剰余金の額を上限とする。
・種類株式の払戻等対応資本金額等は,その資本の払戻しに係る各種類資本金額を基礎として計算することとする。
なお実務ではあまり起き得ないものとなります。
【改正時期:不明】