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【確定申告】配当所得の有利判定(上場株式)

目次
はじめに
上場株式をお持ちの方で、配当金が証券口座に入金される方もいらっしゃると思います。この配当金は、予め税金を控除された後の金額となります。配当金の申告方法には3つあり、制度が非常に複雑となっておりますが、上手く利用することによって税金の還付を受けることができます。
※内容は、執筆現在当時の法令等に基づいております。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、ご本人の責任において各顧問税理士や税務当局にご確認頂き、行ってください。
3つの課税方法
配当金の申告については以下の3つの制度があり、各々個人の所得水準等により、最も有利な制度が異なりますので、確認が必要となります。
【配当金の3つの課税制度】
申告の種類 | :申告した方が得なケース | ||
①申告不要 | :所得水準が高い人、譲渡損失がない人 | ||
②総合課税 | :一定以下の所得水準の人 | ||
③申告分離課税 | :譲渡損失がある人 |
入金された配当金は、配当額の20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が源泉徴収された後の残額となります。特に申告方法を選択しなければ「①申告不要」を選択したものと取り扱われます(特段の手続きは不要で、課税関係が完結します)。
総合課税を選択するケース
総合課税を選択することにより「配当控除」を受けることできます。所得のレンジによって配当から控除できる金額は以下のように異なります。
【配当から控除できる金額(配当控除率)】
課税総所得金額等(※) | 配当控除率(所得税) | 配当控除率(住民税) | 配当控除率(合計) |
①1,000万円以下 | 10% | 2.8% | 12.8% |
②配当所得を加えると1,000万円超 (1,000万円以下) | 10%(5%) | 2.8%(1.4%) | 12.8%(6.4%) |
③配当所得を加えなくても1,000万円超 | 5% | 1.4% | 6.4% |
(※)「課税総所得金額等:総所得金額-所得控除」
【判定方法】
✅実質税率が、源泉された所得税率(15%)よりも低ければ総合課税を選択する。
✅住民税は、申告不要を選択する(住民税で総合課税の配当控除を適用しても申告不要の税率(5%)より有利になることはないため)。
【判定表】
課税総所得金額等 | 税率(所得税) | 配当控除(所得税) | 実質税率(所得税) | |
4,000万円超 | 45% | 5% | 40% | |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 5% | 35% | |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 5% | 28% | |
900万円超1,000万円以下 | 33% | 10% | 23% | |
695万円超900万円以下 | 23% | 10% | 13% | ←源泉税率15%以下 |
330万円超695万円以下 | 20% | 10% | 10% | |
195万円超330万円以下 | 10% | 10% | 0% | |
195万円以下 | 5% | 10% | △5% |
課税総所得金額が900万円以下の場合には、配当控除を受けることによって、源泉税率15%と自身の実質税率との差額の還付を受けることができます。
【住民税の申告】
所得税の確定申告において、総合課税を選択した場合には、何も手続きをしないと住民税もそのまま総合課税として取り扱われてします。そのため、各自治体によって申請書の形式は異なりますが、所定の用紙に申告不要を選択する申請が必要となります(後述の申告分離課税を選択した場合にも、同様に別途申請が必要となります)。
申告分離課税を選択するケース
申告分離課税を選択した場合には、配当控除は受けることができませんが、申告不要と同様に税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)となります。
わざわざ、手続きが不要な申告不要制度を選択せずに申告分離課税を選択するメリットとしては、上場株式の譲渡損失と配当額を損益通算することができる点です。
この手続きにより、配当金額から源泉されていた税額が還付されることとなります。
申告分離課税の留意点
国民保険加入者の場合には、申告分離課税(配当所得と譲渡損失を損益通算)することにより、減少する税金よりも国民健康保険料が増加するケースもあるため留意する必要があります。
実際に例を見て確認します。
(例題)A証券:▲10万円、B証券:+110万円
⇒損益通算により20,315円(10万円×20.315%)の還付があります。
⇒ただし、国民健康保険の課税標準となる住民税の所得割は100万円増加することとなります。
⇒結果、国民健康保険料は112,500円(100万円×11.25%(※))増加となってしまいます。
(※)国民健康保険料率は自治体により異なります。
以上から、申告分離課税を選択したとしても、住民税では【申告不要】を選択することに留意が必要です。
申告方法選択の留意点
【総合課税と申告分離課税】
申告する上場株式等の配当等の全てについて、どちらかを選択する必要があります。
⇒株式の銘柄ごとに選択はできません。
【申告不要制度】
申告不要制度は、特定口座ごとに選択が可能です。
⇒一部の口座だけ上場株式の譲渡損失と損益通算するために申告分離課税で申告するといった対応が可能です。